スレ大杉なんで2chブラウザ推奨

これ参考にがんばって!!1 → 板追加手順

■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 201- 301- 401- 501- 601- 701- 801- 901- 最新50


レス数が1000を超えています。残念ながら全部は表示しません。
ノノ*^ー^) えりがナマタでえりながカメで |||9|‘_ゝ‘) Part2

1 :名無し募集中。。。:2012/01/01(日) 15:36:31.29 O
◇ふとしたはずみで生田衣梨奈と亀井絵里の身体が入れ替わってしまったことから巻き起こるストーリー 
 身体の入れ替わった二人とガキさんとの三角関係の行方は!?

【プロローグ】

|||9|^_ゝ^) <新垣さん聞いてください!ブックオフで新垣さんの写真集がすっごく安く売ってたんでコンプしました!
( ・e・)<な〜によそれ あたしの写真集が価値がないみたいじゃないの 「安く」は余計!「安く」は
|||9|^_ゝ^) <そんな事ないですよ えりなにとっては大好きな新垣さんのですもん
        価値ありありですよ 安くですけどちゃんとお金は払って買ったんですから
        お買い物上手って褒めてください あと写真集にサインしてもらって・・
♪〜トラワヨー プサンハンヘー アーイタイー
∩・e・)<はいもしもし おーっ!カメ〜 今夜?いいよ オッケー! んじゃね〜ハーイ・・ ポチットナ
|||9|#‘_ゝ‘)<亀井さんですか?
( ・e・)<えー?あん そーそー 
|||9|^_ゝ^) <あっそうだ 今度写真集全部持ってくるんでサインしてもらって・・
(・e・* )〜♪今夜はカ〜メが泊まりにくるから さっさと仕事をおわらすべ〜 ガキカメー!ってか
|||9|^_ゝ^) サイン・・

|||9|^_ゝ^) ・・

|||9|‘_ゝ‘) <いいなぁ〜亀井さんは・・ えりなも亀井さんになりたいなぁ・・

◇とまぁそういうこって この後えりりんと身体が入れ替わったナマタがガキさんと
 「ガキカメ〜」と言いながら肛門を広げたり広げなかったり
 ナマタと身体が入れ替わったえりりんがガキさんにホッペを
    _, ,_
  ( #・e・) <なんかムシャクシャするのだ
つ<;゜_ゝ゜>⊂ <痛たたたたたたた

ってされたりされなかったり・・

147 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 23:04:33.61 0
「……すみませんでした…」

本当は、最初から分かっていた。
衣梨奈が道路に飛び出したのは、確かにアルのせいだ。
だけど、アルを追って飛び出たのは、生田衣梨奈の優しさだ。
一緒に活動した期間はなくとも、入れ替わって過ごした期間に、絵里は衣梨奈のことを少しずつ理解してきた。
もちろん、生田衣梨奈のすべてを理解できるなんて思ってもいないけれど。
それでも分かることがある。

衣梨奈もまた、自分の心に正直に生きているのだ。
アルが道路に走っていった。それを衣梨奈は追ったのだ。
たとえ飼い犬でなくても、危ないと思ったから、ただ助けたいと思ったから、だから衣梨奈は走ったのだ。
紛れもなくそれは、衣梨奈の優しさであり、彼女の心だった。だれのせいでもない、生田衣梨奈の魂だった。

「じゃ、アルに謝ること。アホはまあアホだけど、絵里の犬なんだからね」

おい、人の犬をそこまで言うことはないだろ。いや、確かにアホですけど。
絵里は、さゆみなりの優しさに苦笑しながらも「はい」と返した。
するとさゆみも「よし」と頭を撫でて立ち上がった。凛としたその姿は、誇らしい、同期の姿だった。

「さゆみは帰るけど生田はどうする?」
「あ…もうちょっと、此処に居ます」
「そっか。あんまり遅くならないようにね。ガキさんには、さゆみから言っとくから」

148 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 23:05:09.20 0
そうしてさゆみは手を振って屋上をあとにした。
絵里はぺこっと頭を下げたあと、再び夕陽を見つめた。
世界をオレンジ色に染める切なくて、だけど何処か優しい色に絵里はどうしてか、涙が出そうになる。
こんな夕陽を見ながら、衣梨奈もアルとともに歩いていたのだろうか。

―絵里の色やね…

あの声は、いまにして思えば、同期ふたりのものだった。
博多弁を使う、此処にはいないもうひとりの同期、田中れいな。
彼女こそ、自分の心に素直で、その言動はときにメンバーをドキッとさせ、冷や冷やさせる。それが無性に、羨ましくもある。
今日、此処には居なくとも、れいなもまた、さゆみと同じように絵里を心配しているのだろうなと思った。

亀井絵里がどれだけの人に愛されているかを、絵里はいま、痛感した。
だけど、此処に居るのに、此処に絵里は確かに居るのに、と、絵里は目を伏せる。

いつになったら、戻れるのだろう。
いつになったら、亀井絵里として笑えるのだろう。
いつになったら、えりぽんとまた一緒に歩けるのだろう。

沈んでいく夕陽に目を細め、絵里は膝を抱えた。
ぎゅうと自分を守るように体を抱きしめ、絵里は目を閉じた。

149 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 23:06:13.31 0
何処かで犬の鳴き声がした。
絵里はひとつくしゃみをすると目を開ける。日はとっくに沈み、夜の静寂と冷たさに街は包まれていた。
あれ、此処は何処だっけと思うが、うっすらと記憶が邂逅する。そっか、あのまま寝ちゃったんだと絵里は苦笑した。
泣いていたのだろうか、頬には涙の痕が残っている。まるで子どもだと苦笑しながら拭うと、犬の声がした。
それがアルだと気づくのに時間は必要なかった。

アルは絵里の足元で尻尾を振ってこちらを見ていた。
真ん丸な瞳が無性に可愛くて、絵里は「よしよし」と頭を撫でる。
普段なら嫌がるのに、今日は大人しいなと思いながらも、絵里はアルに話しかけた。

「ごめんね…さっき」

アルは尻尾をすっと下ろし、吠えることをやめた。

「アルのせいじゃないのにね…」

これはなにかの罰なのだろうか。
絵里が生きてきて、なにか悪いことでもしたのだろうか。
かみさまの気に触るような、なにかとんでもないことをしでかして、衣梨奈にもその火の粉が降りかかったのだろうか。
絵里は泣きそうになるのを堪えながらただ無意識に「えりぽん……」と呟く。

150 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 23:06:54.13 0
リンリン編>>108の続きから投下します

151 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 23:06:56.19 0
瞬間、アルは耳を立て、ひとつ吠えたあと、走り出した。
突然の行動に絵里は眉を顰めるが、迷うことなくアルを追った。
まだ謝り足りてないよと思い、アルの背中を追うが、いかんせん、相手は犬、速い。

「アル、此処は病院だからー」

そんな病院で叫ぶ自分もどうかと思うが、絵里は止まらない。
とにかくアルを追うと、彼は突如、止まって、振り返る。
絵里も慌てて止まり、アルを見つめる。

アルの黒い瞳は真っ直ぐに、絵里を見つめていた。
どうしたのだろうと思うが、アルはなにも言わずにこちらをただ見ていた。
絵里は眉を顰めじっと彼を見るが、当然、なにも答えない。
だが、アルを見つめるうちに、絵里は奇妙な違和感を覚えた。
この感覚、前にも何処かで味わった。
そう、それはさほど遠くない過去、本来のものでないものを見るような、そんな感覚。

152 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 23:07:58.90 0
>>150
すみません アル編もうすぐ投下し終えますのでよろしくお願いします


まさかと思うが、もちろん確証はなかった。
絵里がなにかを言おうとすると、アルは再び走り出した。絵里は慌てて追う。
アルが入っていったのは、小児病棟の多目的ルームだった。此処は、小児患者の触れ合いの場になっており、さまざまなおもちゃが置いてある。
いまは夜のためか、人は誰もいなかった。
病院内で犬を連れているなど、不都合にもほどがあったので、絵里は正直ほっとした。

アルはそんなことも気にせずに、多目的ルームをウロウロする。
なにをしているのだろうと思っていると、アルはおもちゃ箱を倒した。
「あー!」と叫び、絵里は慌ててそれを元に戻すがアルは意に関せず、中身を物色する。
やっぱりアホ犬だぁと思っていると、アルは「くーん」と鼻で鳴き、それの上に前足を乗せた。

153 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 23:08:24.40 0
それは積み木だった。
正確に言うと、50音のうち、「な」と書かれた積み木。
絵里が思わず「は?」と口に出すと、アルは再び倒したおもちゃ箱から同じ積み木を見つけ出し、また前足を乗せる。
今度の積み木は「え」であった。
なにが言いたいんだろうと思いながらも「な、え?」と言うと、アルはまた積み木を探し、足を乗せた。

「こ?」

そう言うと、アルは吠えた。
あ、ごめん違ったね、と絵里は慌てて左に回転させると、それは「こ」ではなく「り」であった。
「な」と「え」と「り」……と考えていると、絵里は「あ」と口に出した。

「あんた、えなり君が好きなの?」

テレビに出ている俳優の名前を口にすると、アルは先ほどより強く吠えた。
どうも怒っているようだ。

「あー、そんなに吠えると聞こえるでしょ!」

絵里はアルの口をおさえると、答えに行きついた。
同じように「あ」と思わず声を上げたが、先ほどのそれとは質が違った。
自分の覚えた違和感、一瞬の感覚、そしてこの積み木……考えたって答えはひとつしかない。
現実離れしているとか、あり得ないとか、馬鹿げているとか思われても構わない。だって、絵里の魂が此処にあるのだから。

154 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 23:08:46.77 0
「えりぽん……?」

たったひとつの仮定に行きついたとき、アルはぱあっと笑顔を見せた。
そう、確かにアルは笑ったのだ。口を大きく開け、目を細めて、笑ったのだ。
その姿は、紛れもなく、あの日に見た、生田衣梨奈の笑顔だった。

155 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 23:09:42.68 0
アル編の2話でしたー
大方の予想どおりかもしれませんがご了承をw

156 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 23:13:24.33 0
なんかタイミングかぶっちゃったみたいですみません
改めてリンリン編投下します

157 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 23:15:49.50 0
「こんにち・・・ワァッ!」
隣の楽屋のドアを開けた私はまた誰かにぶつかられてひっくり返ってしまった。
「イタタ…」そう言いながら起き上ってみると、同じように起き上ってきたのは鈴木香音ちゃんだった。

「あ、リンリンさん!」
「香音ちゃん久しぶり〜!あの、生田ちゃ…」
「すみません!ケータリングが私を呼んでるんで失礼しまーす!」

158 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 23:17:21.68 0
生田ちゃんのことを尋ねる間もなく、香音ちゃんは走り去っていってしまった。
「あ、鞘師ちゃん…」
「香音ちゃん待ってよ〜!」

鞘師ちゃんも行ってしまい呆然としていると、譜久村ちゃんが苦笑しながら話しかけてきた。
「すみません、香音ちゃんいつもああなんです。何か御用でしたか?」
「あ、えーと。生田ちゃんいる?」

「えりぽんならさっき『電話かけてくる』って出て行きましたよ。たぶん廊下の長椅子のところじゃないかな」
「ありがとう」
と、譜久村ちゃんにお礼を言って私は楽屋を出ようとした。が、今度は誰かに背中から抱きしめられてしまった。


159 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 23:19:00.74 0
「リンリーン、私には挨拶なしぃ?」福田花音ちゃんだった。
「チョ、チョトマテクダサイ」
「あ〜、リンリンそんなにスマイレージの新曲気に入ってくれたんだね♪」

どうやらまだまだ生田ちゃんには会えないようだった。

160 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 23:21:58.16 0
>>157-159
リンリン編の今日の分は以上です
当初思ってたよりも長編になってきましたw

161 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 23:31:30.28 0
正統派さんの文章が好きすぎる件
アル編は予想通りwだがそこからどうなるのかも気になるところ…
リンリン編にも期待

162 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 23:34:28.18 O
>>155
おつでした
マジでどう話をまとめるのか楽しみだ

>>160
なかなかナマタに会えないリンリンw

163 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 01:09:36.25 0


164 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 01:20:33.35 0
アル編感動した......

>>159

ワロタw

165 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 04:55:05.56 0
アル編
トラックじゃなかったかー予想が外れたなー
冗談はさておきイイヨイイヨー
亀の体(inアル)の意識が戻ったらエライことになりそうでwktk

リンリン編
香音とぶつかった時に入れ替わるのか!?って思ってハッとしたw
リンリンは目的の人に会うまでがひとつのクエストになって面白いわガンガレリンリン

166 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 06:37:58.51 O
なんか色々面白くなってきたw

167 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 08:53:04.98 O
どっちも楽しみだぁ

168 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 09:07:20.14 0
アル編のちゃゆううううううううううううが好きだな
ワッフル食べとく

169 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 11:15:36.55 0
ノノ*^ー^)<ワンワン

170 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 13:00:09.39 O
从;・ 。.・)<え、絵里…?

171 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 13:18:51.61 O
スピンオフ編(番外編)

2011年8月
日本の芸能界史上に残る一大激震が襲った
司会者島田紳助が暴力団との交友の事実が明らかになったことを受け
芸能界電撃引退を発表した

その後の暴力団排除条例誕生にともなう
芸能界における暴力団排除の動きがすすむなか
当時交際中の男が暴力団の名前を出しての恐喝で逮捕された加護亜依が
その後男が暴力団関係者であることが判明するやいなや
あらゆるショックで自殺未遂に陥ってしまった
さらに矢口真里が紳助ファミリーであることが災いし
暮れの紅白では返り咲きが期待されたモーニング娘。
初出場が期待されたドリームモーニング娘。をはじめ
ハロプロのアーティストは3年連続全滅の不名誉という異常事態となった

一般からは暴力団ガイドラインクロ認定の烙印を押されたモーニング娘。とハロー!プロジェクト
亀井絵里の、生田衣梨奈の、
それぞれの未来は・・・!?

次回本編につづく・・・?

172 :171:2012/01/05(木) 13:35:24.13 O
スピンオフ編は>>171のみです

この編を使うかどうかにつきましては
ほかの本編の作者さんの皆様におまかせします

173 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 13:37:27.32 0
使いません

174 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 14:58:18.42 0
今夜あたりアル編あげますー
あと2話くらいで終わる予定です

175 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 15:00:33.32 O
>>171
巣に帰れ

176 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 15:02:31.29 0
>>174
わんっわんっ!

177 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 15:05:22.97 O
>>175
ハチの巣にされたいんだな

178 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 15:14:57.92 0
さゆえり
http://st73.storage.gree.jp/album/23/42/27952342/3c440026_640.jpg

179 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 16:23:27.43 0
確かにさゆえり…w

180 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 17:19:02.35 O
えりえりが欲しいところw

181 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 17:37:31.50 0
さゆに頼めばえりえりをあげてくれそうなきも

182 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 17:43:03.34 0
要望に応えてまのえりをあげてしまうさゆ

183 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 17:47:40.32 O
Wえりなですね

184 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 18:32:30.82 0
アル編 >>123-128,>>145-154つづきです


「せ・み・す・ま…すま……すみません?」

積み木を頭の中で並べ替えてそう聞くと、アルは頷いた。
先ほどから、この50音積み木を使って、アルと絵里は会話をしていた。

絵里は必死に、いままで入ってきた情報を整理させた。
アルの散歩中に衣梨奈が事故に遭ったこと。衣梨奈はトラックに撥ねられたこと。絵里の体は重症で、意識不明の状態であること。
そしてもうひとつ、アホに定評のあるアルが、積み木で絵里と会話していること。

此処まで来れば、もう、答えはひとつしかないのではないか。
絵里と衣梨奈が入れ替わったように、衣梨奈は今度は、アルと入れ替わってしまったのだ。
衣梨奈とアルは、同時に車に轢かれたことにより、同時に魂が飛び出てしまい、なにかの拍子で、互いの肉体に入ってしまった。

衣梨奈の魂が入っていた絵里の肉体は、トラックに撥ねられたことにより重症を負い、その中に入ったアルの魂の、意識は戻らない。
だが、衣梨奈にかばわれたアルの肉体は元気で、その中に入ったのは、絵里の肉体から飛び出た衣梨奈の魂だった。
だからこそ、アルとして生きている衣梨奈はこうして会話が出来ている。
そうでも考えないことには、この積み木の会話の説明がつかない。

185 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 18:33:31.79 0
「すみませんはナシだって言ったよ?」

そうして絵里がアルの頭を撫でると、申し訳なさそうに「くぅん」と泣いた。
この声も、この仕草も確かにアルのものだった。だが、絵里はその奥に、生田衣梨奈を見つけたのだ。

絵里はふっと笑うと、ぽんと手を叩き、おもちゃ箱を漁った。
アルはきょとんとその姿を見ていると、絵里は中から画用紙とクレヨンを見つけた。
この際、これでも良いかと、絵里は白い画用紙に青いクレヨンで「あ」から順に文字を書き始めた。
「あ」から「お」を書き終えると、次の行へ行き、今度は「か」から始める。それを繰り返すと、無事に「ん」まで書き終えた。
指先が青いクレヨンで汚れながらも、絵里は「じゃん」とそれを見せつけた。

「絵里のお手製50音表ですよー今度はこれを指してくれる?」

一瞬だけアルは首を傾げたが、なにかを理解したのか、床に置いたその表の「は」を指したあと「い」を指す。
絵里はドキッとする。もう、間違いがない。

「えりぽん、アルと、入れ替わったの?」

アル、肉体はアルである衣梨奈は「た」と「ふ」を指し、最後に「ん」を指した。
そして「と」「ら」「つ」「く」と順に指したかと思うと、「か」「い」「た」「ん」と前足を置いていった。
さらに「お」「な」「し」と指すと、ひとつ吠えた。

絵里は一瞬だけ考えたのち、衣梨奈の言わんとすことを理解した。
トラックにぶつかったことと、階段から落ちたこと、入れ替わった原理は同じだと彼女は考えている。

186 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 18:34:35.05 0
あり得ないとか非現実的とか言っている場合ではない。
現にこうして、生田衣梨奈の肉体に、亀井絵里の魂が入ってしまっているのだから。
そうであるならば、アルの肉体に、生田衣梨奈の魂が入っても、不思議はない。
いまの絵里と衣梨奈であれば、非科学的とされるUFOやポルターガイストをはじめとした、どんな不可解な現象でも信じられる気がした。

「絵里の体に入ってるの、アルなの?」

そう聞くと、衣梨奈は一瞬だけ迷うと「た」「ふ」「ん」と指していく。
彼女の答えを聞き、絵里は正直に、ホッとした。
アルの魂が入ったとすると、あのアホ犬は絵里の体でなにをするか分かったもんじゃない。
絵里の体でアルが吠える…犬食いをする……4足歩行になる………
挙句に用を足されたときには………やめよう、考えたくない。あまりにも悲劇的すぎて現実を見失う。
絵里は最悪の事態を想定し、頭を振った。

衣梨奈は絵里の太股に前足を置くと、「ほ」「ん」「と」「に」と順に指していく。
その足が「す」と「み」の場所を指したとき、絵里はお手をするように、衣梨奈の手を取った。
衣梨奈は「え?」という顔をすると絵里は笑い「だいじょうぶだから」と返した。

187 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 18:35:14.84 0
確信はない。
此処までややこし入れ替わりが生じたいま、戻れる保証もなにもない。
絵里の肉体が目を覚ませば、アルは好き放題に生きていくだろう。それはもう致し方のないことだ。
そうなれば、亀井絵里として今後生きていくことはもう諦めざるを得ない。

だが、衣梨奈にはなんとしても、この肉体を返さなくてはいかない。
この場でいま、絵里の魂が衣梨奈の肉体から離れ、衣梨奈の魂がアルの肉体から離れれば、入れ替われる可能性は高い。
衣梨奈に肉体を返せるのであれば、絵里は犬として生きてやろう。この優しい子に、犬の一生を送らせるわけにはいかない。
だいじょうぶ、絶対に返すと、絵里は拳を握った。

なぜだろう、たった数週間の入れ替わりでしか知らない子なのに。
モーニング娘。で活動した期間はなかった。
同期でなくとも、同じグループで活動していたなら、ある程度の絆は生まれる。
その中でこんな感情が生まれるのなら理解できるのに、相手は全く知らない女の子だ。
10歳も違う、出身地も違う、タイプも似ていない、そんなに会話もしたことのない子なのに。

188 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 18:35:40.95 0
それでも絵里は、衣梨奈に返したかった。
自分の肉体を取り戻したいのではなく、彼女に肉体を返したかった。

飼い犬でもないのに、アルを追い駆けて助けてくれたこの子に。
自分に責任を感じ、「すみません」と謝ってしまうこの子に。
犬になってしまった自分に弱音を吐かず、相手のことを考えているこの子に。
絵里を迷わずに追いかけて来てくれた、衣梨奈に。

絵里は不思議な感情を抱きながらも優しく微笑み、アルの肉体を抱きかかえた。
衣梨奈は驚いたような声を上げるが、絵里は「だいじょうぶ」と言うと衣梨奈をその腕で包み込み、自分の眠る病室へと向かった。

189 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 18:36:23.82 0
以上で第3話終了です
次がラストになるかなぁ…
早ければ今夜投下します

190 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 18:39:53.42 0
アホとアホが合体したのですね
色々とどうなる事やら

191 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 18:40:49.42 0
やべええええ
目にうっすら何かが膜を張っている
イイヨイイヨー

192 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 19:01:21.12 0
正統派さんすごいお

193 :1:2012/01/05(木) 19:04:01.53 0
トラックに撥ねられそうになったカメをナマタが体当たりして
その衝撃で戻るっていう 元通りになるアイデアのひとつとして書いたんだが
その後オマケで書いたアルと入れ替わる方を本当にストーリーにしちゃうとは・・

どうなっちゃうのコレ?

194 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 19:06:36.52 0
>>1すごいよ>>1
それを実際形にできるのもすごいな

195 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 19:16:55.27 0
変態はいずこへ

196 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 20:07:32.75 O
てす

197 :名無し募集中。。。 忍法帖【Lv=40,xxxPT】 :2012/01/05(木) 20:09:03.68 O
なんか変

198 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 20:11:15.90 0
>>189
乙乙
仕事も早いし素晴らしいですな

199 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:07:45.94 0
アル編>>123-128,>>145-154,>>184-188つづきです


生命維持装置に繋がれた「亀井絵里」を見つめながら、絵里はふうと息を吐く。
先ほど病室の前を通った看護師には、今夜はもう面会時間を過ぎたから帰ってほしいと暗に言われた。
ケータイで時刻を確認すると、もう20時を過ぎていたので、それは当然といえば当然であった。
恐らく、先ほどまで此処に居た絵里の両親も里沙もさゆみも、その言葉に従い、帰ったのだろう。
だが、絵里はどうしてもその場から動けずに、眠る絵里を見つめた。

ガラスに手をつけて、「アル…」と呼ぶ。
仮説が正しければ、いまあそこにいるのは飼い犬のアルだった。
絵里の腕に抱かれているアルは、アルではなく、衣梨奈であるのだから、この仮説は恐らく真実になる。
だが、それが立証されたところで解決策はない。
解決策がないために、今日の今日まで、亀井絵里は生田衣梨奈として、生田衣梨奈は亀井絵里として生きていた。

どうすれば良いのかも分からない。
解決策も、手立ても、手がかりさえもない。
入れ替わったメカニズムも、肉体に強い衝撃を受けたことで魂が飛び出た、という以外の説明がつかない。
しかもこのメカニズムは、「恐らく」という前置詞のついただけの、ただの仮説にすぎなかった。

絵里が黙って自らの肉体を見つめていると、腕の中の衣梨奈が寂しく鳴いた。
その声に我に返った絵里は、精一杯の笑顔を見せ、「屋上、行こうか」と囁いた。
このまま此処に居るのは得策とは思えなかった。見回りの看護師に犬を連れている姿を見つけられては、それこそ追い出される。
手立てがない以上、帰ることも策のひとつだったが、どうしても絵里は、病院から離れたくなかった。
絵里はゆっくりと夕刻を過ごした屋上への階段を上がった。

200 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:08:37.92 0
病院の屋上から見る夜空は、妙に綺麗だった。
街の明かりが煌々としているにもかかわらず、星が点在している夜空は、そのまま絵里と衣梨奈の未来のようで切なくもある。
周囲は明るいのに、そのせいで、星は見えにくい。
都会の空にある星は、気付いてもらえない絵里と衣梨奈のようで、無性に哀しくなる。
絵里は「はあ」と息を吐いて目を閉じた。冷たい夜風が前髪を遊んだ。
腕の中の衣梨奈は心配そうに見つめるが、もう、笑うことは出来そうにもなかった。

「ねぇ、えりぽん…」

絵里はぽつりと話し始めた。衣梨奈はきょとんとしながらも腕の中から絵里を見つめる。
真っ直ぐな瞳に見つめられるが、絵里はその瞳を交わすことなく言葉を紡ぐ。

「いまなら、返せるかな?」

絵里はそうしてふっと立ち上がり、上って来た階段をじっと見つめる。
此処から転がり落ちれば、少なくとも衣梨奈の肉体を返すことはできそうだった。
確証はないが、このまま此処で燻っているよりも、いっそ飛んでみた方が良いのではないだろうか。

ずっと考えていた。
入れ替わった理由、原因。
それは、やはり自分にあるのではないか。

あの日、絵里が気まぐれで事務所へ行かなければ、こんなことにはならなかった。
衣梨奈がモーニング娘。として活動することが叶わず、挙句にアルの肉体に入ってしまうこともなかった。
絵里はモーニング娘。で活動し、たくさんの仲間に囲まれて充実しているというのに。

かみさまの機嫌を損ねるようなことをした覚えはないが、それでもこのままで良いなんてことはない。
いまなら、返せる。此処から落ちれば、きっと、と、絵里には直感があった。

201 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:09:15.33 0
絵里は階段の前に立つ。
先の見えない暗闇が目の前に広がり、一瞬絵里は心臓が締め付けられる。
腕の中で「くぅん」と鳴く声がし、瞼を閉じると、あの優しい衣梨奈の笑顔が浮かんできた。

「だいじょうぶだよ、えりぽん。きっと返せるから」

もう、半ば自棄になっていたのかもしれない。
非現実的すぎる、この現状に。
入れ替わったメカニズムも原因も、なにも分からないけれども、もう、イヤだった。
これ以上の不幸を衣梨奈に背負わせることが、出口のない闇の中を歩くことが、絵里の外見で生きるアルを見ることが。

絵里は「はあ」と息を吐き、天を仰ぐ。
覚悟はもう、決まっていた。絵里は長い階段に一歩足を踏み出す。

瞬間、絵里の腕の中にいたアル、衣梨奈が暴れ、地に飛び降りた。
衣梨奈は地に足をつけると、再び飛び上がり、絵里の左腕の袖に噛みついた。そして自分の力をめいっぱい込めて引っ張る。

「ちょ、えりぽん!」

突然のことに絵里は驚き、衣梨奈を引き剥がそうとするが、衣梨奈はその顎を離さない。
聞いたこともないような低い唸り声を上げ、衣梨奈は噛む力を強め、絵里を必死に引っ張る。
衣梨奈は必死になにかを訴えるような瞳を絵里に向ける。絵里はその瞳の奥に、彼女の真意を見た気がした。

絵里の力が一瞬弱まった隙に、衣梨奈は渾身の力で袖を引いた。
その反動に押され、絵里はそのまま左側面から倒れ込む。ずいぶん滑稽な姿で倒れたものだと、思わず苦笑した。

202 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:10:02.02 0
「ぐぁん!」

上から降ってきた声に、絵里は顔を上げた。
「ワン」でも「くぅん」でもなかった聞いたことのないアルの声に驚くが、その瞳は、紛れもなく生田衣梨奈のものだった。
息を荒くし、歯を食いしばって見つめるその姿に、絵里は途方もない罪悪感が浮かぶ。


―――そんなの意味ないじゃないですか!


アルが大きく吠えた瞬間、彼女の姿がそこにダブった。
本気で怒り、本気で泣いている生田衣梨奈がそこにいた。

意味?意味ってなに?
てかえりぽん、いま、えりぽんが……

203 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:10:26.85 0
「……えりぽん?」

一瞬だけ聞こえた彼女の声を確かめようと、絵里は彼女に話しかけるが、返ってきたのは「ワン」という犬の鳴き声だけだった。
衣梨奈はちょこんと絵里の前に座り、顔を下げる。
首をなんどか振り、絵里になにかを訴えようとするのだが、彼女にその術はなかった。
そうだ、あの50音表…と絵里は思い出すが、残念ながらそれは、あの多目的ルームに置いてきてしまった。
ああ、なんでこんなときに!と悔やみ、立ち上がって取りに行こうとする。

しかし、その絵里の太股にアルの前足が触れた。
絵里が見つめると、アルがお手をしているような格好でいるが、それはアルではなかった。

そこには確かに衣梨奈がいた。

膝立ちになり、絵里を真っ直ぐに見つめ、なにかを言わんとしながらも口を真一文字に結んだ生田衣梨奈がいた。

絵里はなにかを言おうとするが、言葉にはならなかった。
いま、目の前に彼女がいる。絵里の瞳には衣梨奈が映っているが、衣梨奈の瞳に映っているのは、絵里?
言葉を探しても、なにも出てこなかった。
口が渇き、喉の奥でなにかがつっかえるが、それ以上、絵里は言葉を探すことをしなかった。

204 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:10:55.21 0
もう、衣梨奈の言いたいことは分かっている。
怒りと悲しみを滲ませ、泣きそうになっている衣梨奈を見れば、それくらい、分かる。


―絵里はそういう子なんだよ


遠くで、さゆみの声が聞こえた。

自分の飼い犬でもないのに、危ないと思ったから、ただ助けたいと走った衣梨奈。
入れ替わったことに責任を感じ、「すみません」と謝ってしまう衣梨奈。
ひどい言葉を吐かれても、決して立ち止まらずに迷うことなく絵里を追いかけて来た衣梨奈。

そうだ、えりぽんは、生田衣梨奈はそういう子なんだ。

臆病で弱音も吐くし、時々KYでアホな子だけど、だれよりも優しくて、迷わずに手を差し伸べる子なんだ。

絵里は此処から飛び降りて体を返そうとしたけど、それに迷わずに反対した。
えりぽんは、それじゃ意味ないって言いたかったんだね……

205 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:11:26.34 0
“自己犠牲”は確かに美しいかもしれない。
それがある意味で、日本人の美徳だとされている面も感じられることもある。
自分より人を大事にできる子だと、さゆみは絵里を称した。
それが過大評価であることはいちど無視するとしても、そのたとえは、自己犠牲とは違うと絵里は思う。
人を大切にすることは、自分を大切にすることだと絵里は知っている。
人の笑顔、人のシアワセを願うならば、それと同じように、まず自分を大切にしなくては意味がない。

内気で弱気な自分を変えるためにモーニング娘。に加入して、それでも自信がなかった。
だが、卒業直前になって、ようやく絵里は、自分を大切にすることを知った。
“自己犠牲”が自己満足の独りよがりかは、当人たちの価値観次第だが、絵里はそれを望まない。
自分を大切にして、そのうえでだれかのためになにかをしたいと思った。

それなのに絵里は、いま、衣梨奈のためにと此処から飛ぼうとした。
だが、そんなことを衣梨奈は望まない。望まないから、彼女は吠えたのだ。

「似てるね…絵里たち……」

206 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:11:44.76 0
そう言うと、絵里は衣梨奈をそっと抱きしめた。
衣梨奈の体は温かく、ふいに訪れたその優しさに、絵里は思わずその瞳から涙を零した。

「ごめんね、えりぽん……」

絵里がその耳元で囁くと、衣梨奈は目を見開き、その後、なにかを理解したのか、ふっと優しく微笑んだ。
衣梨奈は両腕を絵里の背中に回し、絵里の温もりを確かめた。
絵里が瞳を閉じると、瞼の裏に彼女の屈託のない笑顔が映った。


何処か遠くで、アルの吠える声を聞いた―――


207 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:12:23.32 0
第4話此処までです
思いのほかに長くなってしまって申し訳ない…
最終話は22時ごろ投下します

208 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:20:10.29 0
小学校の図書室に置いてほしい物語だ

209 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:36:10.96 0
乙です
なんか次読むのが怖い・・・

210 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:40:49.08 0
書くのはやいな

211 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:50:41.44 0
ハッピーエンドだよね‥‥

212 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 22:02:03.98 0
ワッフルワッフル

213 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 22:02:27.19 0
アル編>>123-128,>>145-154,>>184-188,>>199-206つづきです


「こらぁ、生田ぁ!」

急に上から降ってきた声に目を覚ました。
目の前には、口うるさくも優しいリーダー、新垣里沙がいる。

「…にいがきさん…」
「こんな所で寝ちゃ風邪引くでしょーが!」

寝てた…?と絵里は周囲を見渡す。
此処は……と考えると、病院の屋上だった。日は沈み、冷たい風が吹き抜けている。
絵里は思わず身震いをした。あれ、ガキさん帰ったんじゃ……というか、アル、えりぽんは?

「生田、寝ぼけてんの?」
「え、あ、ま…いや……」
「あー、それより、カメが目を覚ましたよ!」

さまざまな状況を整理しようとしたとき、絵里の頭に急に里沙から大きな情報を叩きこまれた。
絵里はその言葉を聞くや否や、勢い良く飛び上がり、屋上から病室へと走った。
うしろで、「こらー、走るなー!」と里沙の声が追いかけてきたが、振り返ることも、スピードを落とすこともしなかった。

214 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 22:03:02.06 0
集中治療室の中には絵里の両親がいた。
ふたりとも肩を震わせ、上体を起こした「亀井絵里」となにかを話していた。

「え…亀井さん……」

心臓が高鳴る。
あの仮説が正しければ、いま絵里の中に居るのはアルということになる。
アルがアホかどうかはさておき、起きた瞬間に絵里が「わん」と吠えれば、そりゃ両親も泣くしかない。
本当に、本当に、アルの魂が絵里の肉体に入っているのだろうか?

「……えりぽん…」

彼女から放たれた言葉に絵里は耳を疑った。

「ごめんね、心配…かけて」

紛れもなく、その声は亀井絵里のものであった。
ということは、まさか、と思ったとき、後方で犬の声がした。
絵里が振り返ると、扉の近くで、亀井家の愛犬、アルが元気良く吠えていた。

「またお前は中に入ってきて…」

そうして絵里の父親はアルを叱りに行くが、その声は全く怒ってなどいなかった。
むしろ、愛しくて堪らないというようなそのトーンに、絵里は安心しつつも違和感を覚えた。
待って、だってあれは…とアルを見つめるが、アルはいつものように大好きな父親に抱かれて嬉しそうにしっぽを振っている。

215 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 22:03:35.20 0
絵里がなにかを言いかけると、今度は後方から医者の声がした。
その声に母親は振り返り、ベッドに上半身を起こした「亀井絵里」の手を握ると、扉へと歩いた。
両親がなにかを離している隙に、絵里は彼女の元へと歩み寄る。

「……あの…」
「心配かけてすみませんでした…亀井さん」

その言葉に絵里は眼を見開いた。
間違いない。困ったように笑う表情は確かに亀井絵里だが、その奥にあるのは、生田衣梨奈であった。

「な、なんで…?」
「すみません、アルを追いかけたらトラックに撥ねられちゃったみたいで…」
「いや、そうじゃなくて…」

絵里の質問に対する明確な答えが得られず、絵里は質問を続ける。

「なんで、元に戻ったの?」
「……戻ってないじゃないですか」
「いや、だから、そうじゃなくて…」

あなたはさっきまで、トラックとぶつかった衝撃でアルと入れ替わっていたでしょ?と聞こうとすると、里沙が呼ぶ声がした。

216 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 22:04:10.38 0
「生田、今日はもう帰るよー。カメも無理しないでね」
「あ、はい、だいじょうぶです」

里沙の言葉によって絵里と衣梨奈の会話は中断を余儀なくされた。
絵里は腑に落ちないままであったが、これ以上無理させることは良くないと判断し、衣梨奈に一礼して部屋を後にした。

「ありがとうございました。本当に心配をおかけして…」
「いえ。私たちが勝手に待っていただけなので…では、今日は失礼します」

絵里の両親に頭を下げる里沙に倣い、絵里も慌てて深く頭を下げた。
その後、里沙は両親といくつか会話をしていたが、どうやら絵里の容体はさほど悪くないらしい。
意識も戻ったいま、あとはゆっくりと入院して体を休めれば、いずれは退院できるようであった。
絵里がその言葉にホッとしていると、横から里沙に「ほら、アルに謝って」と言われる。

「あんた、さゆみんから言われたくせに、まだ謝ってないでしょ?」

里沙の言葉に絵里は眉を顰める。
なんだか分からないことだらけだったが、絵里はその言葉に素直に従い、父の腕の中にいるアルと見つめ合った。

「…さっきはごめんね、アル」

真っ直ぐに言葉を渡すと、アルはじっとこちらを見つめ返した。
なにか聞こえるかもしれないとその瞳を覗きこむが、アルはなにも言わず、最終的に大きなあくびをして顔を反らした。
「こら、アル」と父親が苦笑しながら叱るが、その様子もまたいつものアルらしいなと思った。

217 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 22:04:46.78 0
「では、私たちはこれで…」
「はい、ありがとうございました」

そう里沙があいさつし、4人は深く頭を下げ、それぞれ歩き出した。
絵里は頭を整理させるが、どうしても追いつかない。いったいどうやって戻ったのだ?と考えるが、答えにはたどり着かない。
だいたい、どうして里沙も両親も此処にいるのだ?
先ほど病室の前に行ったときには、看護師に面会が終了したから帰れと言われたにもかかわらず、である。

待てよ、と絵里は思い、里沙の腕を取る。

「なによー生田ぁ」
「いま、何時ですか?」
「いま?えーっと、6時10分だね」

218 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 22:05:10.10 0
おかしい、と思った。
「亀井絵里」の眠る病室に行ったとき、絵里は確かに20時を過ぎていたことを確認した。
だが、いま里沙の時計を見る限り、その2時間前まで戻っていることになる。
まさかタイムスリップ?とも思うが、それより現実的な回答が目の前に浮かんだ。

―……夢?

確かにそう考える方が自然だった。
さゆみが屋上に来たのは夢ではなく現実だろう。先ほどの里沙の言葉がそれを証明している。
そうであるならば、何処からが夢だ?

病室に行ったときが既に夢であるならば、必然的に、屋上でアルに起こされたときから夢を見ていたと考える方が自然だった。
確かに、そう考えれば、説明がつく。
アルと衣梨奈は入れ替わってなどいない。だから衣梨奈は「……戻ってないじゃないですか」と答えたのだ。
絵里はずっと寝ていたのだ。さゆみが屋上から去ってから、里沙が起こしに来るまでの間、ずっと。
その間に、アルと衣梨奈が入れ替わったという非現実的な夢を見ていたのだ。

「そりゃそうだよね…」
「んー、なにが?」
「……なんでもないです、新垣さん」

絵里はふっと苦笑した。
確かに絵里と衣梨奈はなんらかの拍子で入れ替わってしまったが、いくらなんでも犬と人間が入れ替わるなんて馬鹿げている。
そんな非現実的で荒唐無稽なこと、もううんざりだ。
衣梨奈と入れ替わったことと、衣梨奈が事故に遭ったこととで、精神的に追い詰められ、どうも不思議な夢を見ていたようだ。

219 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 22:05:53.31 0
「はー、とにかくカメが無事で良かったよ」

病院の外に出ると、里沙はぐっと伸びをした。
本当に、この人には迷惑をかけっぱなしで申し訳ないと絵里は思うが、いま、此処で謝ってもどうしようもない。

「新垣さん…」

なにかできることはないだろうかと考えるが、どうしたって、絵里にできることはなかった。

「ご飯、食べに行きましょうか。亀井さんのお祝いってことで」

だから絵里は、いつも里沙が見ているであろう衣梨奈を演じ、ニコッと笑って見せた。
少しでも、里沙が元気になれるようにと絵里が思うと、里沙もなにかを察したのか、クスッと笑い、その肩を叩いた。

「よっしゃぁ、じゃあパーっと飲み行くかぁ」

そうして里沙は笑顔を見せ絵里にそう言った。

「あの…わたし未成年なんですけど」
「もー。早く大人になんなさい」

無理な注文だなあと思いながらも、絵里は里沙の隣を歩く。
いまはこれだけしかできないけれど、いつかちゃんと、返します。
えりぽんに体を返したら、ちゃんとふたりで、ガキさんにもらった優しさ、全部返しますから。

220 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 22:06:17.27 0
「ごーはーん!」
「うるさーい、近所迷惑でしょーが」

そうして絵里も笑い、里沙の肩に腕を回した。
まるで酔っ払いのようだったが、ふたりは笑いながら夜の街を歩いていく。

「おー、今夜は星が綺麗だねぇ」

里沙が天を見上げてそう言うので、絵里もつられて夜空を仰ぐ。
都会の夜は明るすぎるが、それでもいくつか星は点在し、確かに此処で輝いているよと主張していた。
先の見えない未来のようだと夢の中で絵里は思ったが、もしかして、それは違うのかもしれない。
人の目には見えない星もたくさんあるけれども、確かに星はそこにある。そこで必死に輝いて生命を燃やしている。

だったら、絵里も輝いてやろうじゃないの。

まだ元に戻る方法も分からないけれど、えりぽんと一緒に、輝いてみせる。
此処で確かに生きているんだって、必死に叫んでやる。

221 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 22:06:39.73 0
「届けぇー!」
「なーにやってんのよ生田ぁ」

絵里がそうしてふざけて手を伸ばすと、里沙は笑って返した。
だいじょうぶ、絶対に、だいじょうぶと、だれにでもなく呟き、絵里は届かない星に手を伸ばした。

その指先には、ふたりでも気付かないほどの、青いクレヨンの汚れが付いていた。




アル編 おわり

222 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 22:07:29.77 0
此処でアル編は終わりになります。
在り来たりですが自分の頭じゃこれが限界でした…

期待して下さった方は本当に申し訳ないです

223 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 22:54:55.44 0
>>222
超おつ
ああああああああああ面白いわ本当に

224 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 23:01:19.61 0
>>222
面白かったですうううううううううううう
もっとおおおおおおおおおおおおおおおお

225 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 23:04:34.79 0
カメが時をかけてしまったのか?

目覚めたナマタが記憶なくしてたらどうしようかと
ハラハラしながら読ませていただきますた

226 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 00:09:44.61 0
>>222
おつです
ほんとに面白かったです

自分はリンリン編の作者ですが>>222さんみたいな文章は書けないなぁ
上手すぎる

227 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 00:13:00.05 0

あったかいねえ
安心したw

228 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 00:23:44.23 0
リンリン編>>159の続きを投下します

229 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 00:26:21.08 0
やっとのことで花音ちゃんを始めスマイレージのみんなから解放され、生田ちゃんを探しに廊下に出た。
スマイレージはメンバーが増えてますます元気。和田ちゃんも大変だなぁ…。

廊下を進んでいくと、生田ちゃんの声が聞こえてきて思わず廊下の陰に隠れてしまった。
「うん、今から夜公演。頑張るから見てて。…うん、じゃあまた後で」
電話を終えた生田ちゃんは「ふぅ」とため息をついた。

「リンリン!…さん」
廊下の陰から姿を現した私に気づいた生田ちゃんは驚きの声をあげた。
咄嗟のことで呼び捨てにしかけたのには気付かない振りをして、私はいきなり核心をついた。

「生田ちゃん。いえ、亀井さん、ですよね?」
「な、何言ってるんですか?生田衣梨奈ですよ。亀井さんなわけ…」
私がじっと見つめると、生田ちゃんはやがてふっと笑みをこぼした。

「敵わないな、リンリンには。そう、絵里だよ。なんで気付いたの?」
「最初は冬ハローのリハーサルの動画を見て、なんか亀井さんぽいなと思って。それと今日の昼公演を見て同じことを感じました。
でも、確信したのは今ですよ」
そう言って私はいたずらっぽく笑った。
「なぁんだ、カマかけたのかぁ」
「もし亀井さんならリンリンには打ち明けてくれると信じてました」
「うん、分かった。全部話すよ。でも、もうすぐ夜公演も始まるしえりぽんも一緒の方がいいでしょ。
今日の夜公演はえりぽんも見に来るからライブ終わってから三人で話そ」
「分かりました。それじゃまた後で」

230 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 00:30:56.48 0
>>229
リンリン編の今日の分はここまでです
一応次ぐらいでリンリン編は完結の予定です

231 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 00:41:21.82 0
乙です
wktk

232 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 00:42:38.52 0
アル編を読んで下さった方に感謝です!
書き足りない部分もありますがそこは皆さんの想像で補ってくださいw
あまり褒められると調子に乗りますが本編の方もがんばりますw

>>226,>>230
リンリン編おつです!
自分はそんなに上手くないですよ堅苦しい説明調だし…
>>230さんのような軽快なリズムの文章が書けないので尊敬してます!
完結楽しみにしてます!

233 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 01:14:12.59 0
>>222
限界どころかすごいヨカッタ!

>>230
オモシロクナテキタネー

234 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 02:17:41.18 0
>>233
リンリンおつw
いやジュンジュンか?w

235 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 03:41:17.18 O
なんかいっぱいキテター!

236 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 05:58:45.33 0
いいね

237 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 06:41:15.09 0
>>185
オナ師と読んでしまうなんてorz

238 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 07:14:47.05 O
>>185
えりりんが青姦だなんてw

239 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 08:24:08.37 0
>>237-238
お前らw


ヲレもだが

240 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 09:43:35.91 O
隣で寝ているのは私、中は衣梨奈ちゃんだけど。
自分の寝姿を生で見るなんて普通じゃ出来ないよね。
でも、こうして見てると…絵里の体ってエロくない?
ちょっとイタズラしてみようかなw
右手で胸の膨らみの頂点の回りをなぞってみる。
寝てるえりぽんがピクッと反応してる、そりゃ私の身体だもんね、どこが弱いか一番知ってるもん。
次は下の方、絵里が一番弱いところ。

241 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 10:20:12.53 O
>>237-239
おまえたち…w

242 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 12:05:21.70 O
>>240
続き待ってるんだが

243 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 12:12:40.26 0
わっふるX2

244 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 14:15:28.81 0
>>237-238
お前たちのレス見て初めて気づいたわw

245 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 15:20:05.10 O
正統派に謝れw

246 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 17:26:09.29 0
wktk

247 :名無し募集中。。。:2012/01/06(金) 18:24:47.01 0
>>240を密かに待ってみる

317KB
掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50

0ch BBS 2005-12-31