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ノノ*^ー^) えりがナマタでえりながカメで |||9|‘_ゝ‘) Part2

199 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:07:45.94 0
アル編>>123-128,>>145-154,>>184-188つづきです


生命維持装置に繋がれた「亀井絵里」を見つめながら、絵里はふうと息を吐く。
先ほど病室の前を通った看護師には、今夜はもう面会時間を過ぎたから帰ってほしいと暗に言われた。
ケータイで時刻を確認すると、もう20時を過ぎていたので、それは当然といえば当然であった。
恐らく、先ほどまで此処に居た絵里の両親も里沙もさゆみも、その言葉に従い、帰ったのだろう。
だが、絵里はどうしてもその場から動けずに、眠る絵里を見つめた。

ガラスに手をつけて、「アル…」と呼ぶ。
仮説が正しければ、いまあそこにいるのは飼い犬のアルだった。
絵里の腕に抱かれているアルは、アルではなく、衣梨奈であるのだから、この仮説は恐らく真実になる。
だが、それが立証されたところで解決策はない。
解決策がないために、今日の今日まで、亀井絵里は生田衣梨奈として、生田衣梨奈は亀井絵里として生きていた。

どうすれば良いのかも分からない。
解決策も、手立ても、手がかりさえもない。
入れ替わったメカニズムも、肉体に強い衝撃を受けたことで魂が飛び出た、という以外の説明がつかない。
しかもこのメカニズムは、「恐らく」という前置詞のついただけの、ただの仮説にすぎなかった。

絵里が黙って自らの肉体を見つめていると、腕の中の衣梨奈が寂しく鳴いた。
その声に我に返った絵里は、精一杯の笑顔を見せ、「屋上、行こうか」と囁いた。
このまま此処に居るのは得策とは思えなかった。見回りの看護師に犬を連れている姿を見つけられては、それこそ追い出される。
手立てがない以上、帰ることも策のひとつだったが、どうしても絵里は、病院から離れたくなかった。
絵里はゆっくりと夕刻を過ごした屋上への階段を上がった。

200 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:08:37.92 0
病院の屋上から見る夜空は、妙に綺麗だった。
街の明かりが煌々としているにもかかわらず、星が点在している夜空は、そのまま絵里と衣梨奈の未来のようで切なくもある。
周囲は明るいのに、そのせいで、星は見えにくい。
都会の空にある星は、気付いてもらえない絵里と衣梨奈のようで、無性に哀しくなる。
絵里は「はあ」と息を吐いて目を閉じた。冷たい夜風が前髪を遊んだ。
腕の中の衣梨奈は心配そうに見つめるが、もう、笑うことは出来そうにもなかった。

「ねぇ、えりぽん…」

絵里はぽつりと話し始めた。衣梨奈はきょとんとしながらも腕の中から絵里を見つめる。
真っ直ぐな瞳に見つめられるが、絵里はその瞳を交わすことなく言葉を紡ぐ。

「いまなら、返せるかな?」

絵里はそうしてふっと立ち上がり、上って来た階段をじっと見つめる。
此処から転がり落ちれば、少なくとも衣梨奈の肉体を返すことはできそうだった。
確証はないが、このまま此処で燻っているよりも、いっそ飛んでみた方が良いのではないだろうか。

ずっと考えていた。
入れ替わった理由、原因。
それは、やはり自分にあるのではないか。

あの日、絵里が気まぐれで事務所へ行かなければ、こんなことにはならなかった。
衣梨奈がモーニング娘。として活動することが叶わず、挙句にアルの肉体に入ってしまうこともなかった。
絵里はモーニング娘。で活動し、たくさんの仲間に囲まれて充実しているというのに。

かみさまの機嫌を損ねるようなことをした覚えはないが、それでもこのままで良いなんてことはない。
いまなら、返せる。此処から落ちれば、きっと、と、絵里には直感があった。

201 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:09:15.33 0
絵里は階段の前に立つ。
先の見えない暗闇が目の前に広がり、一瞬絵里は心臓が締め付けられる。
腕の中で「くぅん」と鳴く声がし、瞼を閉じると、あの優しい衣梨奈の笑顔が浮かんできた。

「だいじょうぶだよ、えりぽん。きっと返せるから」

もう、半ば自棄になっていたのかもしれない。
非現実的すぎる、この現状に。
入れ替わったメカニズムも原因も、なにも分からないけれども、もう、イヤだった。
これ以上の不幸を衣梨奈に背負わせることが、出口のない闇の中を歩くことが、絵里の外見で生きるアルを見ることが。

絵里は「はあ」と息を吐き、天を仰ぐ。
覚悟はもう、決まっていた。絵里は長い階段に一歩足を踏み出す。

瞬間、絵里の腕の中にいたアル、衣梨奈が暴れ、地に飛び降りた。
衣梨奈は地に足をつけると、再び飛び上がり、絵里の左腕の袖に噛みついた。そして自分の力をめいっぱい込めて引っ張る。

「ちょ、えりぽん!」

突然のことに絵里は驚き、衣梨奈を引き剥がそうとするが、衣梨奈はその顎を離さない。
聞いたこともないような低い唸り声を上げ、衣梨奈は噛む力を強め、絵里を必死に引っ張る。
衣梨奈は必死になにかを訴えるような瞳を絵里に向ける。絵里はその瞳の奥に、彼女の真意を見た気がした。

絵里の力が一瞬弱まった隙に、衣梨奈は渾身の力で袖を引いた。
その反動に押され、絵里はそのまま左側面から倒れ込む。ずいぶん滑稽な姿で倒れたものだと、思わず苦笑した。

202 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:10:02.02 0
「ぐぁん!」

上から降ってきた声に、絵里は顔を上げた。
「ワン」でも「くぅん」でもなかった聞いたことのないアルの声に驚くが、その瞳は、紛れもなく生田衣梨奈のものだった。
息を荒くし、歯を食いしばって見つめるその姿に、絵里は途方もない罪悪感が浮かぶ。


―――そんなの意味ないじゃないですか!


アルが大きく吠えた瞬間、彼女の姿がそこにダブった。
本気で怒り、本気で泣いている生田衣梨奈がそこにいた。

意味?意味ってなに?
てかえりぽん、いま、えりぽんが……

203 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:10:26.85 0
「……えりぽん?」

一瞬だけ聞こえた彼女の声を確かめようと、絵里は彼女に話しかけるが、返ってきたのは「ワン」という犬の鳴き声だけだった。
衣梨奈はちょこんと絵里の前に座り、顔を下げる。
首をなんどか振り、絵里になにかを訴えようとするのだが、彼女にその術はなかった。
そうだ、あの50音表…と絵里は思い出すが、残念ながらそれは、あの多目的ルームに置いてきてしまった。
ああ、なんでこんなときに!と悔やみ、立ち上がって取りに行こうとする。

しかし、その絵里の太股にアルの前足が触れた。
絵里が見つめると、アルがお手をしているような格好でいるが、それはアルではなかった。

そこには確かに衣梨奈がいた。

膝立ちになり、絵里を真っ直ぐに見つめ、なにかを言わんとしながらも口を真一文字に結んだ生田衣梨奈がいた。

絵里はなにかを言おうとするが、言葉にはならなかった。
いま、目の前に彼女がいる。絵里の瞳には衣梨奈が映っているが、衣梨奈の瞳に映っているのは、絵里?
言葉を探しても、なにも出てこなかった。
口が渇き、喉の奥でなにかがつっかえるが、それ以上、絵里は言葉を探すことをしなかった。

204 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:10:55.21 0
もう、衣梨奈の言いたいことは分かっている。
怒りと悲しみを滲ませ、泣きそうになっている衣梨奈を見れば、それくらい、分かる。


―絵里はそういう子なんだよ


遠くで、さゆみの声が聞こえた。

自分の飼い犬でもないのに、危ないと思ったから、ただ助けたいと走った衣梨奈。
入れ替わったことに責任を感じ、「すみません」と謝ってしまう衣梨奈。
ひどい言葉を吐かれても、決して立ち止まらずに迷うことなく絵里を追いかけて来た衣梨奈。

そうだ、えりぽんは、生田衣梨奈はそういう子なんだ。

臆病で弱音も吐くし、時々KYでアホな子だけど、だれよりも優しくて、迷わずに手を差し伸べる子なんだ。

絵里は此処から飛び降りて体を返そうとしたけど、それに迷わずに反対した。
えりぽんは、それじゃ意味ないって言いたかったんだね……

205 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:11:26.34 0
“自己犠牲”は確かに美しいかもしれない。
それがある意味で、日本人の美徳だとされている面も感じられることもある。
自分より人を大事にできる子だと、さゆみは絵里を称した。
それが過大評価であることはいちど無視するとしても、そのたとえは、自己犠牲とは違うと絵里は思う。
人を大切にすることは、自分を大切にすることだと絵里は知っている。
人の笑顔、人のシアワセを願うならば、それと同じように、まず自分を大切にしなくては意味がない。

内気で弱気な自分を変えるためにモーニング娘。に加入して、それでも自信がなかった。
だが、卒業直前になって、ようやく絵里は、自分を大切にすることを知った。
“自己犠牲”が自己満足の独りよがりかは、当人たちの価値観次第だが、絵里はそれを望まない。
自分を大切にして、そのうえでだれかのためになにかをしたいと思った。

それなのに絵里は、いま、衣梨奈のためにと此処から飛ぼうとした。
だが、そんなことを衣梨奈は望まない。望まないから、彼女は吠えたのだ。

「似てるね…絵里たち……」

206 :名無し募集中。。。:2012/01/05(木) 21:11:44.76 0
そう言うと、絵里は衣梨奈をそっと抱きしめた。
衣梨奈の体は温かく、ふいに訪れたその優しさに、絵里は思わずその瞳から涙を零した。

「ごめんね、えりぽん……」

絵里がその耳元で囁くと、衣梨奈は目を見開き、その後、なにかを理解したのか、ふっと優しく微笑んだ。
衣梨奈は両腕を絵里の背中に回し、絵里の温もりを確かめた。
絵里が瞳を閉じると、瞼の裏に彼女の屈託のない笑顔が映った。


何処か遠くで、アルの吠える声を聞いた―――


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0ch BBS 2005-12-31