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ノノ*^ー^) えりがナマタでえりながカメで |||9|‘_ゝ‘) Part2

123 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 14:13:45.04 0
「アルは絵里に負けず劣らずアホだけど、よろしくねー」

衣梨奈は絵里の声を反芻しながら、飼い主に「アホ」と称された、亀井家の愛犬、アルを散歩させていた。
夕刻の日暮れ時、眩しいオレンジの太陽に目を細めながら、衣梨奈はアルのリードを引く。

「ととと…」

衣梨奈は犬を飼っていないため、散歩には慣れていない。
しかし、絵里の外見である以上はこのアルの飼い主にあたるため、散歩しないわけにもいかない。
溜息を堪えながら衣梨奈はアルと外へと出た。

アルは舌を出しながら意気揚々と走り出す。
歳はいくつなのかも聞いていないが、元気いっぱいに歩く姿を見ていると、なんだか微笑ましい。
犬を飼っていないにもかかわらず、衣梨奈は優しい気持ちになる。
アルに対する愛情とか、そんなものはいまのいままで持ち合わせていなかったのに、ふとした瞬間に、心が温まる。
「早く行こうよぉ」と急かすようにリードを引くその姿は、アホなのかもしれないが、どこか無償の愛を注ぎたくなる。

「アルー」

衣梨奈がそう呼ぶと、彼はピタッと立ち止まり、きょとんとした顔で振り向く。
「…ご主人?」と言わんばかりの疑問の表情を浮かべ、はち切れんばかりに振っていた尻尾がすっと落ちる。
ああ、もしかしたらアルは気付いているのかも知れないなと苦笑しながら、衣梨奈は「行こうか」と呟く。
なんだか、無性に切なくなるけど、いまさら嘆いても仕方のないことだと分かっているけれども、それでも衣梨奈は天を仰いだ。

124 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 14:14:17.66 0
いつになったら、戻れるのだろう。
いつになったら、生田衣梨奈として笑えるのだろう。
いつになったら、亀井さんとまた一緒に歩けるだろう。

一瞬そうして迷った瞬間、衣梨奈は握っていたリードの力を弱めてしまった。
それを気付いたかは定かではないが、アルはひとつ吠えたあと、勢いよく走りだした。
衣梨奈が「あ」と思った瞬間にはもう遅く、アルは衣梨奈の数メートル先を走っていた。

「ちょ、アル!」

衣梨奈も慌てて追いかけるが、アルは止まる様子を見せず、走る脚を早める。
「うへへぇ、ご主じ〜ん」と、まるで、久しぶりの主人との追いかけっこを楽しむようなその姿は、愛しいのだけれど、困る。
冗談じゃない、私はきみの主人じゃないっちゃん!
衣梨奈は嘆きながらも必死に走った。

すると、アルは速度を徐々に落とし、道の端で首を左右に振る。
おい、待て。まさか、と思うが、その予感は不運にも的中することになる。

「アル!」

衣梨奈が呼んだ瞬間、アルは道路へと歩を進めた。
マズい!と心の中に浮かんだとき、無意識のうちに衣梨奈はアルを追った。
瞬間、信号を無視したトラックが突っ込んできた。

衣梨奈の意識は、そこで途切れた―――

125 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 14:14:57.73 0
絵里は息を切らして病院内を駆け抜けた。
看護師になにか言われた気がするが、もう気にする余裕はなかった。
絵里が辿り着いたとき、そこには絵里の両親と、同期であるさゆみ、そして先輩の里沙がいた。

「生田……」

里沙の声に、絵里は反応できなかった。
それは「自分の」名を呼ばれていることに気づかなかったからではない。
みなが見つめるそのガラスの向こう、幾多の機械に囲まれて静かに眠るその姿に目を奪われ、それ以外の情報を失ったからだった。

「……うそ…」

絵里の視線の先に、彼女は、いた。
亀井絵里、魂は生田衣梨奈である絵里が、病室に眠っていた。
周りには生命維持装置や心電図の機械が存在し、なんの知識もない絵里ですら、いまの衣梨奈の容体が分かった。

「…アルの散歩中にトラックに撥ねられて…意識がまだ…」

絵里の母親が鼻をすする音がする。父親はグッと肩を抱き寄せる。
さゆみは黙って拳を握り締め、眠る「亀井絵里」を見つめ、隣に居る里沙も下唇を噛む。
なにが起きているのか、判断できない。これは、これが、現実?

126 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 14:15:25.11 0
絵里の中に居るのは、生田衣梨奈。
紛れもなく、生田衣梨奈の魂があそこにいる。

「どうして……」

絵里はずるずると膝を折り、地に崩れ落ちた。
どうしてこんなことになったのだろう。だれがこんなことをしたのだろう。
かみさま?気まぐれ?それとも運命?

絵里は最悪の事態を考えた。
このまま亀井絵里の肉体が死ぬと、どうなる?
当然、生田衣梨奈の魂の行き先がなくなる。
そのとき、運良く彼女の魂が元に戻れば良い。そして絵里が死ぬのならまだマシだ。

だが、もしそうならなかったら?
そもそも入れ替わったメカニズムですらまだ分かっていない。
あのとき、ふたりは「同時に」意識を失っている。同時に魂が抜けた結果、空洞になった互いの肉体に入り込んだという仮説を立てた。
それがカギだとすれば、今回のことは例外すぎる。
いま、絵里の肉体が空洞で衣梨奈の魂は抜けているとしても、その先はない。
衣梨奈の魂はどうなる?行き先のない、衣梨奈の魂は、何処へ導かれる?

絵里は自然と涙がこぼれ落ちていた。
どうして、だれが、なんのためにこんなことをしたのだ。
なんで、なんで、なんで!!!

127 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 14:16:01.97 0
「ワン!」

そのとき、犬の声がした。
その場の人間が振り向くと、廊下の向こう側から、勢いよく犬が走って来た。
絵里はその犬の名を知っている。それは、亀井家の愛犬である「アル」だった。

「アル、どうして入って来たんだ…」

絵里の父親はアルを抱きかかえて話しかけた。
アルはといえば、それが不服なのか、暴れて腕から逃げようとする。
いちばん懐いているはずの父親なのになぜだろうと一瞬だけ思ったが、そんなことはどうでも良かった。

衣梨奈が事故に遭った原因、それはアルの散歩だった。
信号無視のトラックに撥ねられたということだったが、そもそもは、アルが道路に飛び出たのでそれを衣梨奈が追ったのだ。

「ワン、ワン!」

アルは絵里を見て吠える。
どうしてこいつは、こんなときにも無邪気に吠えるのだろう?

アルが道路に飛び出なければ、衣梨奈は事故に遭わなかった。
アルを散歩させなければ、衣梨奈は事故に遭わなかった。
アルさえ、アルさえいなければ、衣梨奈は事故に遭わなかった。

128 :名無し募集中。。。:2012/01/04(水) 14:16:25.47 0
絵里はぎゅうと拳を握り締める。あまりの強さに爪が掌に食い込む。
体の震えに気づいたさゆみは心配そうに絵里を見つめるが、彼女はその視線に気づかない。

絵里の肉体の死は、そのまま衣梨奈の魂の死を意味していた。
それは、絵里の両親を悲しませるが、衣梨奈の両親も悲しませることに繋がる。
衣梨奈の両親は、真実を知らないままに生きていくだろうが、本当の娘はもう死んでいるのだ。
そんな不幸、他にあるのだろうか?

すべては、この、アルのせいだ―――

絵里の掌から血が流れた。
アホみたいに無邪気に吠え、尻尾と愛想を振りまく、バカ犬のせいだ。
こいつのせいで、こいつのせいで、えりぽんは……

「アルの…」

低い声が響く。里沙はドキッとして顔を上げる。
そしてハッとした瞬間だったが、もう、遅かった。

「全部アルのせいだよ!」

絵里はもう、なにもかもが嫌になり、そのまま走り出した。
後ろで里沙の声が聞こえたが、もう振り返ることもなかった。

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0ch BBS 2005-12-31