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ガキさんは夏の終わりの匂いを感じる

142 :名無し募集中。。。:2006/08/29(火) 00:36:24.89 0
僕たちは、真夏の青空の下を歩いていた。
僕らの学校施設であるところの通称「山奥のグラウンド」からの帰り道。

今年は校舎にあるプールやグラウンドが工事のため使用できないので、僕たちはバスに乗っかって
この山奥までわざわざやってきていた。
暑い盛りの昼下がり。水泳部の練習の手伝い−僕はもう退部してるんだけど−を終えて、
僕はじっとバスを待っていた。一つ前のバスは間一髪逃していた。
「おーい。もう帰るの?」
ガキさんがバスを待っている僕に声を掛けてきた。一人だった。
「冷たいよねー。だいたいなんで副部長の私が部室のゴミ出しまでしなきゃいけないのよ。」
どうやらちょっと片づけをやってたらしく、みんな一つ前のバスで帰ってしまっていた。
世話焼きのガキさんらしいなってって思った。ああ、やっとく。やっとく。先帰りなよ。てな感じで。
「まったく副部長の威厳ってのがないね」
「そーなのよ。もう。雑用係かっての」

ジリジリする真夏の光線の中、僕たちはただじっとバスを待ってた。
「ねぇ・・・」
「ん?」
「バス来ないねぇ」
そう言えばもう出発時刻を15分も過ぎている。いくらなんでも遅れすぎだよな・・・
「あー。ちょっとぉー、今日ってこのバス運休ってなってるよ!」
「え、今日って・・・うわ、マジだ、次は・・・2時間後かよ!」
「もう最悪ぅ、ついてないなぁ・・・」
太陽はさらに上から照らし続ける。じっと立ってるのは正直辛い。
「しょうがない。歩いて帰ろう!」
「え、マジで?」
「しょーがないでしょー。」
「でも、暑いぜ・・・」
「ここで立ってても仕方ないよ次の停留所にベンチ付きの小屋があるから。ね、行くよ。しゅっぱーつ!」
ガキさんはカバンを肩に掛けると元気よく歩きだした。
僕は仕方なく後に続いた。

143 :名無し募集中。。。:2006/08/29(火) 00:37:15.10 0
炎天下の中、僕らは歩き出した。青々とした稲が絨毯のようにそよそよ揺れていた。
いつしか僕の左斜め後方に位置を変えながら僕たちは歩いていた。
相変わらず空は真っ青だった。蝉の声だけがジィジィとちょっと小さめに聞こえていた。
「ねぇ・・・」
「ん?」
「昔もこうやって、歩いて帰ったっけね。」
「ああ、あそこの川か。よく行ってたな。」
「そうそう。ちょうど向こうの道からこの道を通って帰ったんだよ。」
昔・・・ガキさんとは子供の頃から近所に住んでいて、よく一緒に遊んでいた。
この「山奥」の近くにちょっとした淵があって、夏休みになるとよく遊びに行っていた。
親たちは心配して遊びにいっちゃいけないって言ってたけど、ガキさんは僕を誘いに来た。
僕もガキさんと二人で親には内緒で出かけていった。
帰り道はバスに乗らずに僕たちはこの道を歩いてた帰っていたものだった。
「あの頃の方がさ、なんか近かったような気がするね。こんなに次のバス停って遠かったっけ?」
「昔はさ、いろいろ寄り道したりしてたし、ちょっとした冒険って感じもあったし」
「でも今はもう高校生にもなってる訳だし。歩幅だって大きくなってるはずなんだけど」
「ガキさんはほら、まだ成長してないからじゃない?」
僕はそう言って彼女に振り向いた。すると一瞬昔の記憶が甦ってきた。
−僕の右手をしっかりと掴んで離さない麦藁帽をかぶったおさげ髪の女の子がてくてくついてくる−
「ちょっとーどういう意味よそれー!」
ガキさんはぷくっと頬を膨らませ抗議の表情を見せた。
「どうせ私は幼児体型ですよーだ。」
白いブラウスに紺の多少短めのスカート。大きなカバンを振り回して僕に投げつけようとする姿は、
間違いなく今のガキさんだ。
「あんたなんて無駄に身長が伸びただけじゃん。」
口を尖らせて憎まれ口を叩く女の子。ブラウスに負けないくらい白い二の腕、紺のスカートから
伸びる脚はすらっと細く、何よりもその唇は少女というよりも女性であることを主張している
ようなピンク色に光っていた。僕はちょっと照れ隠しに悪態をついてみた。
「うん、改めて見ても、やっぱり幼児体型だよな」
「もうー!ちょっとこらー!」
とうとうガキさんはカバンを振り回して僕を追いかけはじめた。僕はあわてて逃げ出した。

144 :名無し募集中。。。:2006/08/29(火) 00:37:29.51 0
本当は何なのか魚介類図鑑で調べるガキさん


145 :名無し募集中。。。:2006/08/29(火) 00:37:48.62 0
しばらく歩くと前から大きなトラックがやってきた。僕たちは道の片側によけてトラックをやり過ごす。
ガキさんが歩き出した時、反対からもう一台ダンプがやってきた。
「あぶない」
僕はガキさんの腕をとって路肩に引き戻した。
「あぶないなぁ」
「ごめんごめん」
「昔っからそそっかしいところも成長が無いな」
「どーせ」
僕たちはまた歩き出した。自然と手をつないで歩いていた。
僕は自分の掌が汗ばんでないかと気になった。濡れていたのは僕だけじゃなかったみたいだ。
ガキさんはまた黙って歩き出した。僕はちょっとだけスピードを落としガキさんと並ぶように歩いた。
ガキさんは少しうつむき加減に歩いた。僕は少し仰ぎ見るように歩いた。
空には雲が徐々に広がっていた。生暖かい風が田園の緑毛をさらさらなでていた。
峠を越えると眼下に次の停留所が見えていた。小さな小屋みたいな停留所。
「ねぇ・・・」
「ん?」
「もう少しこのまま歩いていかない?」
「そうだなぁ」
「ね、そうしようよ。どうせバスはまだ来そうもないし」
「そうしよっか」
このままこの道を歩くのなんて馬鹿げてる。あの停留所には椅子があり、日陰がある。
だけど僕たちはもう少し歩きたいと思ってた。なんとなくそんな気になった。
しかし空は変ないたずらをするらしい。空はやがて灰色の壁となりゴロゴロ音を立て始めた。
蝉の声もいつしか聞こえない。
「うわ、これは、くるな」
「あ」
ガキさんはおでこに水滴を感じたらしい。みるみる間に大粒の雨が僕たちに降り注いだ。
「走るぞ!」
カバンを頭に載せて僕たちは走った。唯一屋根のある停留所目指して。

146 :名無し募集中。。。:2006/08/29(火) 00:38:20.09 0
停留所の待合室にはベンチがひとつ。2人も座れば満員だった。
僕らはぐっしょり濡れて、ベンチにも座らずハンカチで顔の水滴を拭っていた。
雨が小屋の屋根を叩く。僕らは黙って立っていた。
「ついてないよねぇー。あんなにいい天気だったのに」
ガキさんがぽつんと呟いた。
「仕方ないさ。夕立だからすぐにやむよ」
僕はチラッとガキさんを見やった。なんとなく見ちゃいけない気がしてたのかもしれない。
白いブラウスは肌に吸い付いて、体のラインが浮かび上がっていた。
スカートも濡れて足にまとわりついていた。太ももが存在感を主張するように。
僕はなんとなくガキさんに背を向けた。
ベンチに腰掛けて、二人は長く無言だった。小屋にはすきま風が入ってきてかなり寒くなっていた。
「クション」
不意にガキさんがくしゃみをした。
「寒いか?」
「ううん、大丈夫」
ガキさんは身体を抱きかかえていた。唇はすっかり白くなり小さく震えていた。
「無理すんなって」
僕はカバンからジャージを取り出しガキさんに羽織らせた。
ガキさんは小さくうなづいた。僕はガキさんの頬に手を当てた。びっくりするほど冷たい頬だった。
「いつかも・・・」
ガキさんは呟くように口に出した。
「あの時も、こうやって雨宿りしたっけ」
あの時、そう僕の記憶にも甦った。

147 :名無し募集中。。。:2006/08/29(火) 00:40:59.06 0
昔、二人で歩いていた時、同じように夕立にあった。すぐに止むとは思えないほどの降り方で、僕らは時間とともに外がだんだん暗くなっていくのに激しい不安に襲われていた。
ガキさんはやがて泣き出した。僕はガキさんの肩を掴んでこう言った。
「大丈夫。俺がついてるから。もう泣くなよ」
ガキさんは泣きじゃくりながらうなづいて僕に抱きついてきた。僕はしっかりと抱きしめながら雨が止むのを待っていた・・・
「今日は、言ってくれないんだ」
「何を?」
「大丈夫だって」
「え?」
「大丈夫って。このままだとまた泣いちゃうかもよ」
僕はちょっとの間、黙っていた。ガキさんは今にも泣きそうな不安げな顔でこっちをじぃっと見ていた。屋根を叩く雨音はいっこうに収まる気配が無かった。
「心配すんな。もうすぐ止むから」
僕は少し照れながらそう言った。
「ちょっとー。もうちょっと真剣に言ってよぉ」
「なんだよー」
「もう泣いちゃうぞ」
「泣くなって、俺が一緒にいるんだから。大丈夫だから」
勢いで僕は一気に言った。
「ほんと?」
「ほんと」
「ばっかみたい。もう」
新垣は微笑むと僕のそばにぴったりくっついた。ガキさんの左脚が僕の右足に吸い付いた。制服越しにガキさんの体温が感じられる。ガキさんは僕の肩に頭を寄り掛からせた。
「安心したよ。うん」
「もう泣かないか?」
「うん」
僕は自然とガキさんの肩を抱き寄せた。ガキさんは僕に身体を預けるように寄り添った。
「温かーい」
ガキさんは僕の方に顔をあげてそう言った。僕もガキさんの顔をじっとみた。

僕たちは初めてキスをした。

雨が上がると僕たちはまた夕立前のように歩き出した。ただ・・・ガキさんは僕の腕をしっかりと取って二人寄り添って歩いていた。
夕日が背中から二人をひとつの影に照らし出していた。

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