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週刊ウルフ創刊号

1 :名無し募集中。。。:2008/01/10(木) 20:43:06.78 O
いろんな書き手が集まって作品を投下するスレです
長編でも短編でもなんでもオッケーです
書き手は名前欄にトリップをつけたり批評の有無を明確に示しましょう

500 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 01:39:52.59 0
いい引きだ
是非完結まで続けてくれ

501 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 02:02:33.38 0
ドキドキするー!

502 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 03:50:04.60 0
次号に期待!

503 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 03:51:46.86 0
なかなか創刊号埋まらないな

504 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 04:11:55.16 0
第一話だらけで埋めるつもりか

505 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 04:19:58.47 0
書き手がそんな勘違いをしているやもしれぬ

506 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 07:06:04.58 0
おはよ

507 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 07:26:18.30 0
■アイドル・デュエリストれいな(最終回)

前回までのあらすじ >>269-274
 四天王最後の一人、藤本の苛烈な攻撃に絶体絶命のれいな。仲間たちの
熱い叫びを受け、死の淵から蘇る!


508 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 07:26:54.06 0
「れいなのターン!!」
「いい加減、飽きてきたんですけど」藤本は辟易とした口振りだ。「あんた
が勝つ確率なんてゼロ以下じゃん」
「確率なんて関係なか。れいなは信じちょるばい。れいなの仲間と、れいな
のデッキと……」
れいなの手が山札にかかる。「れいな自身を!」
「ドロー!」
れいなは引いてきたカードを即座に使った。
「企画カード《ユニット解散》。ユニットから《仔猫れいにゃ》を脱退させる」
「そんなクズカードで何ができるんだよ」
「《仔猫れいにゃ》の特殊効果発動。このカードが単独で出現したとき、カー
ドを2枚ドローする」
れいながさらに2枚のカードを引いた。そのうち1枚を客席ゾーンに置き、
ファンを増やす。

509 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 07:27:30.49 0
「企画カード《ソロ・デビュー》。《仔猫れいにゃ》を《夜叉髑髏レイナ》に
上位転生。このカードがステージに出たとき、相手ステージの黒属性メンバー
を全て謹慎させる。フライデー・フラッシュ!!!」
「な、何ぃ!」
藤本のステージにある《爆煙神官アイボマー》と《聖胎使ノノタ》、さらに
《美脚神グレート・ミキ》がリバースされた。
「いよいよ主役登場ばい!」れいながさらなるカードを繰り出す。
「企画カード《ソロ・コンサート》発動。《愛戦士タカハシ》《魔導装置ガキ
サン》《光帝アイカ》をバックダンサーにして《夜叉髑髏レイナ》を確変
転生!! 目覚めんしゃい!《超星天帝タナカ=レイナ》!!!」
渦巻く黒雲を散らし、光り輝く究極神が、いま天空より降臨する。
「このカードがステージに出たとき、謹慎中の黒属性2以上メンバーは芸能
界から除外される」
「うわあぁぁぁ!!」
聖なる光に照らされ《爆煙神官アイボマー》が蒸発した。藤本の売り上げが
7千枚けずられる。


510 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 07:28:01.24 0
「さらにカード効果で相手ステージのユニットを1つ解散させる。無論《究極
美神ギャム》が解散たい! 同時に相手ステージにいる歌唱属性5以上のメン
バーを劣化させ、その売り上げに等しいダメージを相手プレーヤーに与える!」
ユニットを解散され、《美脚神グレート・アヤ》も《機械人形アヤ》に戻って
しまう。
「この効果が発動したとき、相手プレーヤーは手札の半数を失う」
藤本の手札が半減する。
「しかも、捨てられた手札数の5千倍《超星天帝タナカ=レイナ》の売り上げが
上昇する」
《タナカ=レイナ》を包んでいた光の輪がルビー色に輝き、売り上げが一気に
上昇する。
「そして《タナカ=レイナ》の売り上げが10万枚を越えた場合、相手の客席
ゾーンのファンを全て吸収、自分の客席ゾーンに配置する」
れいなの客席に活性化したファン4万人が詰めかけた。


511 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 07:28:29.67 0
「ファン2万8千人を動員して《超星天帝タナカ=レイナ》のビヨンド・パワー
発動! 手札の企画カードを1枚ファン・コスト0で使用する」
れいなが手札の1枚を叩きつけた。
「企画カード《単独ツアー》開催たい!」
れいなのステージがライトアップされ、中央に鎮座する《超星天帝》の神々
しい姿が、交錯する光線の中に燦然と照らし出される。
「これにより、自分のステージ上の謹慎中メンバーが全員復帰、山札から
10枚ドロー、手札から5枚までのファンを客席に配置し、各属性のメンバー
を1体ずつ特殊召還、一般人から任意のメンバーを1体復帰させる」
「強すぎだろ!!」
「ターン・エンドたい」


512 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 07:29:22.75 0
「さすがに今のは少しヤバかった……」藤本は顎をつたう汗を袖口で拭った。
「でも、デュエルはまだ終わってないから」
常人ならとっくに意識を失っていたであろうダメージを受けながら、藤本は
なお幽鬼のごとく立ちあがり、血走った眼を見開いてれいなを睨んだ。
「そうたい、まだ終わっちょらんけん」
「何ぃ!?」
「《超星天帝タナカ=レイナ》のアドバンスト効果発動! エンド・フェイズに
このカードがステージ上にある場合、そのプレーヤーが勝利する」
「ちょ……じゃあ今までの効果は……!!!」藤本の叫びは肉体と共に、膨
張する白熱光に飲み込まれ、消滅した。


513 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 07:29:48.70 0
「……勝った? 勝ったの!」
「すごいですよ? あの状況からの逆転なんて考えられなかったんですよ?」
「やったな、れいな。お前もいいデュエリストになったのだ」
駆け寄ってきた仲間たちがれいなの周りを取り囲んだ。れいなは振り返り、
一瞬微笑んだかと思うと、不意に新垣の腕の中に倒れ込んだ。
「れいな! しっかりするのだ!」
れいなは薄目を開けて笑った。「ヘヘ、勝ったっちゃね……」
「もう! 心配させるな!なの」
「藤本さんはどうしてるっちゃ?」
「あの人なら、まだあそこに倒れていますよ?」
れいなは絵里の示す方を見やり、新垣の手を振りほどくと、痛む右足を引き
ずるように藤本に歩み寄っていった。

514 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 07:30:36.05 0
「フッ、笑いに来たのかい」藤本はうつぶせに倒れたまま、指一本動かせず
にいた。
「いや、お礼を言いに来たっちゃ」
「礼?」
「あんたとのデュエル、バリ面白かったっちゃ。あんたみたいなデュエリス
トと戦えて、れいなは幸せたい」
「フフフッ、変わった子だね」藤本の声はどこか楽しげであった。「お前の
ようなデュエリストがまだ生き残っていたなんて……世の中捨てたモンじゃ
ないかもね」
「ハハハハハ」
そのとき、どこからともなく哄笑が響き、藤本の言葉をかき消した。声の出
所を探して周囲を見回す一同。
「あ、あそこに誰かいるの!」
闘技場を見下ろす崖の上に、黒いマントをたなびかせた女が高笑いしていた。


515 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 07:31:15.85 0
「あ、暗黒皇帝……」
「藤本、お前も使えん奴やのう。もう用済みや」暗黒皇帝と呼ばれた女が右
手を振ると、輝くカードが1枚空を切り、藤本の背中に突き刺さった。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」藤本は絶叫と共に異空間に姿を消した。
「何ばしよると!」
「あ、あの人が地下デュエル界の暗黒皇帝、中澤裕子ですよ?」
「何!?」
中澤の声が闘技場に響く。
「侵入者っちゅうんはあんたらか。うちのモンが世話になったのう」
「待っちょれ、中澤! 今からお前を倒しに行くけん!」れいなの声は怒り
に震えていた。
「元気のいいお嬢ちゃんやないの。いつでも相手になってやるさかい、か
かって来ぃや」
「よし、みんな行くっちゃ」
「了解なの」
「絵里も最後までお供しますよ?」
「まったく、れいなといるとトラブルばかりなのだ」
4人のデュエリストは中澤の立つ頂上をめざし、狭く険しい道を駆けあがり
はじめた。

 戦え!アイドル・デュエリストれいな! 戦いはまだ始まったばかりだ!

                                          − 完 −


516 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 08:53:34.38 O
キター!
ぜひ続きを

517 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 10:59:42.31 O
期待あげ

518 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 12:29:48.92 0
ウフル

519 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 12:39:58.92 0
舞美の話もデュエリストも面白い

520 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 13:58:53.43 0


521 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 15:44:33.08 0
ウルフ

522 : ◆sjehs7tfE6 :2008/01/20(日) 16:10:05.38 0
だからね、好きとかそういうんじゃないの。ただ何か気になるっていうか、見てると無性
に腹が立つというか、自分でもよくわかんないんだけど。
「へゆうかさー、ほれってやっぱり『好き』ってことなんじゃないのー?」
紙コップを口にくわえたままでさっそく千奈美がちゃちゃをいれてきた。またそんな時に
限ってマネージャーさんが横を通りかかって、「男女交際はいかんぞ、夏焼!」とか言って
じろって睨んでくるの。ちい、声が大きいよ!
だいたい、ちいなんて話ほとんど聞いてなかったくせに、とかぶちぶち言ってると、
まぁさまで「うん、うちもそう思うなぁー」って言い出して、ほんとやんなっちゃう。
あたしだってもう中3だよ。恋の一つや二つしてきたっちゅうの! でも今度のは今まで
とはなんか違うのよ。だから困ってんのよ。相談してんのよ。なのにこいつらときたら…
「ねぇねぇ、同じクラスなんでしょ?仲良いの?なんかきっかけあるんでしょ?」
冗談じゃない!まぁさはともかく、ちいなんかに言ったら次の日にはメンバー全員に知れ
渡っちゃう! まぁ、あるといえばあるんだけど。「きっかけ」なんていう生易しい言葉
では語れない、それこそあたしにとってはセンセーショナルな「事件」が。

アイツとは「事件」までほとんどしゃべったことなかった。あたしは女子とばかり一緒に
いたし、クラスの男子はすぐ「ベりーズ工房〜」とかいってからかってくるのであんまり
好きじゃなかった。でもアイツだけはそんな男子の輪の中からちょっと外れたところにい
て、いつも教室の一番後ろの席でみんなのことぼーっと見てた。
男友達がいなかったわけじゃない。どちらかといえば「一目置かれてる」って感じ。陸上
部では長距離の選手で、県大会で何位かに入って表彰されてたっけ。女子の間では結構人
気があって、「クールでかっこいいよねぇー」とか言われてた。
あたしは小さいころから芸能界で大人の男の人と接する機会が多かったからあまり同世代
の男子には興味がなくって、友達がきゃぴきゃぴ言ってるのを、ふーん、そんなもんかぁ
くらいにしか思ってなかった。―――そう、あの「事件」までは。

523 : ◆sjehs7tfE6 :2008/01/20(日) 16:12:12.63 0
今から一ヶ月くらい前、もうすぐ11月って頃の雨降りの日に「事件」は起こった。
その日の日直はあたしとアイツ。ただでさえめんどくさいのに、朝から体調悪くておまけ
に先生から雑用いいつけられたりして、もうサイアクとか思ってた。
友達はみんな帰っちゃって、アイツと二人きり。アイツは何もしゃべらないし、あたしも
何もしゃべることないから二人ともずっと黙ったまま作業してたんだけど、しん、と静ま
り返った教室に雨音だけがやけに響いて、なんか息がつまる。 た、耐えられない!
「あ、『雨音はショパンの調べ』って曲知ってる?あれってさ…」無理やり話題を振って
みたけど、アイツはちょっとだけ振り返って「えっ?」って言ったきり、また前を向いて黒
板を消しはじめた。ちょっと、無視するつもり? もうアッタマきた!
猛スピードで日誌を書き終えて、「あたし、これ先生のとこにもってくね!」って捨て台詞
(間違ってるかな?)を残して勢いよく教室を出たら…
アタマにきてたんですっかり忘れてた。ウチの学校の廊下、雨が降ると湿気で滑りやすく
なるんだった。いきなり視界がぐるんって回って、いやというほど廊下に頭を打ちつけた。
たぶんすごい音したんだろうね、アイツがすっ飛んできて「夏焼!夏焼!」って呼ぶ声が
何となく聞こえた。あたしはとりあえずすっころんだ事だけは理解できて、やだ、パンツ
見えてないかな?とか訳わかんないこと考えながら気を失っちゃった。

気がついたらあたしは保健室のベッドの上で横になってた。あせってとりあえず布団を頭
まで被ると、保健室の先生とアイツが話してるのが聞こえてきた。
「頭の方はたいしたことないわ 一応目が覚めたら送ってあげなさい」そう言われて
なんかアイツがすっごいほっとした顔をして「そうですか」と答えた(ように見えた)。
なんだー、いいとこあんじゃん、アイツ!
先生は書類かなんかを書きながら話し続けた。「多分疲れが溜まってたんでしょうね」
そっか、朝から体調悪かったもんなぁ。それにしてもよかった、たいしたことなくって♪
「あんないびきかいて寝てるくらいだから」 ―――な、なにぃ〜!?
いびき聞かれた いびききかれた イビキキカレタ… その単語だけが頭の中でぐるぐる
回って、そのうち、いびき聞かれたとパンツ見られたとでは言葉の響きが似てるな、とか、
いや、記憶が無くなる前にスカート直したからパンツは見られてないに違いないとか、も
うどんどん変な方向に話が飛んでいって軽いパニック状態。
そうこうしてるうちに先生は出て行き、またもやアイツと二人っきりに。するとアイツの
足音がこっちに近づいてきた。やばい、いびきなんか聞かれちゃって顔あわせらんない!
寝たふりだ! 聞かなかったことにするのだ! 全部なかったことにするのだ!!

524 : ◆sjehs7tfE6 :2008/01/20(日) 16:14:27.57 0
「んで、いびき聞かれたくらいで意識しちゃってんの? かわいいー!」
まぁさがあたしの頭をなでなでしてきたけど、なんかむかつく。そりゃあんたはいいでし
ょうよ、まぁさ。いつも天使のような寝顔ですやすや眠ってるんだからさ。
あたしなんか自分がいびきかくなんて初めて知って、それだけでも結構なショックっても
んなのに、いびきを赤の他人に、しかもクラスメイトの男子に聞かれたんだよ!?
「須藤さんお願いしまーす」「はーい!」言い忘れてたけど、いま衣装合わせ中で先に千奈
美がやってたとこなの。まぁさは元気良く立ち上がると、「なぁんだ、てっきりキスでもさ
れたのかって思っちゃった♪」と言い残して鼻歌交じりに去っていった。
…心臓止まるかと思った。こいつ、たまにみょーに鋭いところがある。あなどれんやつ。
それだけは言えない。それだけは、いかにまぁさといえども口が100%ダウンの羽毛布団
のように軽くなってしまうに違いないから。
代わりに衣装合わせが終わった千奈美が猛ダッシュでやってきた。「ねぇねぇ、みやー、さ
っきの話、続き聞かせてよー!」 ちぃ、あんただけには死んでも言わないからね!
そう、寝たふりなんかしたのが間違いだった。本当の「事件」はここから起こったのよ!

アイツが近づいてきたとき、あたしは布団を顔の辺り、目が隠れるか隠れないかってとこ
まで掛けてた。一瞬いびきをかくかどうか迷ったけど、冗談じゃない!汚名返上とばかり
に、それこそまぁさばりの「天使のような寝顔」で寝たふりを続けた。
アイツはあたしの布団を肩まで掛け直してから、隣の椅子に座った。余計なことを…
真横に人がいる状況での寝たふりがこんなにつらいものとは思ってなかった。思い切って
目を開けるべきか、それとも寝返りをうってアイツに背を向けるべきか非常に悩んでると、
「でこちん」
アイツは一言呟いて、こともあろうかあたしの崩れた前髪をかきあげてきた! 
「ひぃっ!」思わず悲鳴と共に目を開けてしまったら、目の前数十センチにアイツの顔の
どアップが! 普通ならここでいい雰囲気になって、見つめあう二人…とかになるんだろ
うけど、あたしはそれどころではなかった。なんせ「ひぃっ!」だよっ、ひぃっ! どう
せなら「きゃっ!」とかかわいさアピールで目覚めたかったのに、いびきの上にひぃっ!
なんてどっかのオバサンみたい…なんてことを考えてたのがいけなかった。アイツに隙を
見せてしまったんだ!
気がつくとアイツの顔がさっきよりもっとアップになってる気がした。あれれっ?とか思
っているうちに、どんどんアイツの顔が近づいてきて…
アイツのくちびるが、あたしのくちびるに重なってたんだ。

525 : ◆sjehs7tfE6 :2008/01/20(日) 16:16:22.03 0
「んで、拒否らなかったわけね?」 あたしはこくんと頷いた。てゆうか、うなだれたと
いったほうが正しいかもしれない。言ってしまった…これだけは言うまいと思ってたのに。
まぁさの、やっぱりねぇ、とでもゆいたげな、にやついた視線が痛い。
ちなみに今は電車の中。しつこく聞いてくるちぃを振り切って二人で地下鉄に飛び乗った
のだった。ごめんね、ちぃ。今度あんたの好きなもの何でも奢ったげるから。
「そっかぁー みやびちゃん、恋だよそれは!初恋ってやつ!!」 まぁさのテンションが一
気に上がって何故か両手で握手された。初恋って、さっきも言ったじゃん。あたしの初恋
は小1だよ! 結構ませてたんだよ。
「そんな子供の頃の恋なんか、恋のうちに入んないって」 まぁさはもうあたしの話など
耳を貸さずにハイテンションでプリッツ食ってる。お菓子常備してるのか? こいつは。
「いいなぁ〜、ファーストキス!あこがれちゃうなぁ〜!!」 ついにテンションがMAXに
達してプリッツ咥えたままじたばたしだした! みんな見てるよ、恥ずかしいよ、まぁさ!
「ね、ね、どうだったの?ファーストキスの感想は?夏焼雅さん!」 挙句の果てにプリ
ッツをマイクに見立ててインタビューしてきやがった。やっぱり相談したのは失敗だった。
あのねぇ、まぁさが思ってるほどロマンチックなもんじゃなかったんだよ。できることな
ら記憶から消去したいくらいだよ。ほんとに…

アイツの顔があたしの顔のほんの数センチってとこまで近づいたとき、あたしは息が止ま
りそうだった。てゆうか、マジで呼吸が止まってしまった。
どんぐらいキスしてただろう。すっごい長かったかもしれないし超短かったかもしんない。
キスするときは自然と目を閉じるって、あれうそだね。あたしはただただぼーぜんとして
アイツの顔ガン見してたんだから。
そのうち息が苦しくなってきた。でも口は塞がれてるし、鼻息ふーん!ってするわけにも
いかない。まずい。ひじょーにまずい。耐えられない!もう限界だ!!
今考えればアイツを突き飛ばすとか、サイアク鼻で息するとかすればよかったのに、耐え
られなくなったあたしは、こともあろうか口から息をぶぅーってはいてしまった!
その息は当然アイツの口の中に入っていき、突然マウストゥマウスの人工呼吸をされたア
イツはすっごいむせて、しばらく咳き込んで動けなかった。
あぁ、最悪だ… ねぇ神様、あたし何か悪いことした? うち浄土真宗だけど、今度から
アナタのこと信じるからさぁ…とかもう自分でも何考えてんのかわかんなくなってると、
アイツは「カバン、取ってくる」って言って出て行ってしまった。 その後のことは正直
よく憶えてないのよ。あたしカバン受け取るとダッシュで帰っちゃったし。マジで最悪だ。

526 : ◆sjehs7tfE6 :2008/01/20(日) 16:19:17.36 0
まぁさは別れるまでずっとハイテンションで、地下鉄を降りた後もスキップして階段を上
っていった。他人のファーストキスの話でこんなにテンションが上がるなんて、自分の時
は一体どうなってしまうのだろうと思うとちょっと心配になった。
次の日もまぁさが来てた。あたしの話の続きを聞こうと一番に来て待ち伏せていたようだ。
そもそもこんなガールズトークするの多分初めてで恥ずかしくってしょうがない。まぁさ
は目キラキラさせて「それで?それで?」って聞いてくるし、あ、千奈美も来た。キスの
ことだけは絶対言っちゃだめだかんね、まぁさ!
「ねぇねぇ、みやの初恋の相手ってどんな子?」「あ、あたしもそれ聞きたーい」「小1だ
ったんだってー」「うっそー、ませてるー」 お前ら、人の恋バナで勝手に盛り上がりやが
って! いつかあんたらの話もじっくり聞かせてもらうからね!!
そうよ、あたしの初恋は小1だったわよ。今も直ってないけど子供の頃は今以上に人見知
りで、小学校に入った時もなかなか友達が出来なかったんだ。おまけにこんな顔でしょ?
男の子達から「がいじん!がいじん〜」ってよくいじめられて、一人で泣いてた。
そんな時、隣のクラスの男の子がよく助けてくれた。「がんばれよ」って言って頭なでてく
れた。隣のクラスだったし二年生に上がる頃に転校しちゃったんで、名前も覚えてないん
だけど、それがあたしの初恋よ!どうだ、まいったか!! だからアイツなんか断じて初恋で
はない! そもそも恋ではない!! ないと思う。思うんだけど、でも何でこんなにすっきり
しないのよ! いらいらするのよ! あぁ〜、もう訳わかめー。
そんな訳わかめ状態のあたしは、正直に言おう、完全にアイツのことを意識していた。
休み時間もつい見てしまう、放課後の部活してるところもぼぉーっと見てしまう、授業中
アイツが先生に当てられたりしたら自分のことのようにどきどきしてしまう(でもアイツ
はあたしよりずぅ〜っと頭が良いのでどんな質問も簡単に答えてしまうのが憎たらしい)。
でもあいつは前と全然変わらなくて、相変わらずのポーカーフェイスを決め込んでいる。
あたしがこんなに動揺(もはや錯乱に近い)してるっていうのに!
ある日学校に行くと、珍しいことにアイツの周りに女子が群がってきゃぴきゃぴ言ってた。
あたしは一気に不機嫌になったが精神力で怒りを抑え、学校では滅多に見せないアイドル
スマイルで帰ってきた女子達に何をしてたのか聞いてみた。
「あのね、昨日買った洋楽のCDを訳してもらってたの!彼、帰国子女だから英語ペラペ
ラだしぃ」「とかいって、話す口実作るためにわざわざCD買ったくせにー」「あ、ばれて
たー?」 …阿呆か、こいつらは。CD買ったら普通歌詞カードがついとろうが!
それよりアイツだ!女子に囲まれてデレデレしやがって(注;雅にそう見えただけで決して
デレデレなどしてない)。あたしにキスしたくせに!もう嫌い!アイツなんか大っ嫌い!!!!

527 : ◆sjehs7tfE6 :2008/01/20(日) 16:21:26.59 0
あたしはアイツを徹底的に無視することに決めた。といってもそれまで仲良くしてた訳で
もないので、偶然目が合った時とかにあからさまにふん!ってそっぽ向くくらいなのだが。
CD女は味をしめたのか、あの日以来ちょくちょくアイツに歌詞を訳させてきゃぴきゃぴ
いってる。その事がより一層あたしの怒りに火をつけた。
「付き片」が発売になってちょっと忙しくなったある日、あたしが学校に行くと男子達が
「おっ、来た来た!」と言って教壇の前でなにやらばたばたしだした。「せーのっ」
♪あなたがすきー むねがいたいー こわいけれどー うちあけたのー♪ 7人固まって
歌い始める。 これ告墳のPVだ。ははぁ〜ん、ジャイケルマクソン見たんだな。それに
してもキモい。岩尾さんの方がまだましだ。
まぁこのくらいで腹を立ててるようじゃアイドルは務まらない。勝手におしよ、お子ちゃ
ま達。そう思って自分の席に着いた。すると、あたしがあんまり無反応だったのが気に入
らなかったらしいモノマネ野郎のリーダー格の男子が、あたしにちょっかい出してきた。
「おいベリーズ、俺の梨沙子ちゃんをいじめないでぇ〜」手下共が大爆笑する。あたしも
さすがにこれにはかちんときた。きっ!と睨みつけて立ち上がろうとすると、誰かがあた
しの肩を押さえつけてガキ大将の胸倉をぐいっと掴んだ。―――アイツだ!
「ちょっと、やりすぎなんじゃないか?」アイツは囁くように、それでいて有無を言わせ
ない圧力を感じさせる声で言った。ガキ大将はたじたじになり、モノマネ野郎共と一緒に
退散した
アイツはあたしに一瞥くれると、何も言わずに自分の席に着いた。教室がしーんと静まり
返る中で、CD女の「かっこいい〜!」と言う馬鹿声が響く。
あたしはむしょーに腹が立った。モノマネ野郎共にも、CD女にも。しかしその怒りの矛
先はすべてアイツに向かった。何であたしが助けられないといけないんだ!あんな奴に!
あたしはずかずかとアイツの席に歩いていき、机をばんっと叩いた。「いったいどういう
つもり? あたしがいつかばってくれって頼んだ? あんなのへっちゃらなのよ! 伊達
にアイドルやってんじゃないわよ!! おせっかいはかえって迷惑なのよ!!」 あたしにキス
したくせに他の女とちゃらちゃらしやがって!…さすがにそれは言わなかったが。
アイツは黙って聞いてた。今度は本当に教室が静まり返った。CD女の馬鹿声も聞こえな
い。アイツはしばらくあたしの目を睨みつけた後、「そうか…」と呟いた。
「悪かったな、でこちん」 そう言い残して、アイツは教室から出て行った。
あたしは放心状態だった。言ってしまった。言いたい事言ったんだけど、このもやもや感
は何? それよりアイツまた「でこちん」って言った。この前も確か言った。キスした時。
でこちんって何よ? 何なのよ一体!

528 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 16:22:46.78 O
支援しときます

529 : ◆sjehs7tfE6 :2008/01/20(日) 16:24:35.63 0
もうまぁさしかいない。お願い、あたしどうしたらいい? レッスン場に着くなりまぁさ
を捜してさまよい歩く、迷える子羊ちゃんのようなあたしを早く救って、まぁさ!
♪いっけぶ〜くろをすぎたぁって〜 こっのあい〜は〜♪ いた!! スペジェネ歌いなが
らカール食ってる。あたしのパートだけど今日は許す! まぁさ、実はね…。
「えぇ〜、もう痴話ゲンカぁ〜!?」 痴話ゲンカではない! 恋人同士ではないし、そも
そも好きではないと言っとろうが!! 「またまたぁ、いいかげん素直になりなって♪ あ、
カール食べる?」 駄目だ。今日のまぁさの頭の中はひよこが2・3匹ぴよぴよいってる。
もうおしまいだ。カールちょうだい…。

あの日以来学校に行くのがつらい。モノマネ野郎やCD女は別にどーでもいいんだ。問題
はアイツなのよ。アイツと顔を会わせるのがひじょーに気まずい。同じクラスであること
をこれ程呪ったことはない。冷静に考えてみれば、いちおうかばってくれた訳だし、ここ
はとりあえず謝っといた方が無難かなぁ。よし、今日会ったら謝ろう!
「おっはよ〜!」 努めて明るく教室に入った。学校でこんなに元気にあいさつしたこと
なかったかもしれない。アイツは…いた! よぉし、がんばれ雅! あのさ、この前…
「ベリーズさん!!」 げっ、CD女! なんなのよ、今あんたにかまってる暇ないのよ!
「ベリーズさん!彼、転校しちゃうんだって!!」 ほぇっ!? なにそれ、彼ってだれ?
「ねぇ、あたしどぉしたらいい? ベリーズさぁ〜ん!!」 CD女はこともあろうかあたし
の胸で泣き出してしまった。アイツが転校!? あぁ、なんか目の前がちかちかしてきた
どぉしたらいいって、あたしの方が聞きたいくらいだよ、お前さん…
その話が東スポ並みのデマであることを神様に祈ったが、当然祈りは通じることなく、
ホームルームで正式に発表されることとなる。神様、あんたとは短い付き合いだったね。
アイツは相変わらずポーカーフェイス、CD女はめそめそ泣いてるし、あたしは訳わかめ
を通り越してもはやラリパッパ状態。 あドばる〜ん こ〜いのバる〜ん〜…
とてもまともに先生の話を聞いてられる状態では無かったが、かろうじて耳に入ってきた
話を総合するとお父さんの仕事の都合で来週にはロスに立つらしい。急な話だが小6まで
もロスにいたので向こうに家もあるとのこと。なんてこったい。あたしとは住む世界が違
う人だったんだねぇ。そういうあたしも普通の人とは住む世界が違うんだけど。とにかく
あたし達は縁が無かったんだよ。例えて言うなら「ねじれの位置」みたいなもの? 人生
で一番近づいた瞬間が今だっただけのこと。このまま一生すれ違っていくんだ。
この際だから素直に言うけど、あたし、アイツの事好きだったよ。誤解しないでね。「だっ
た」だからね、「だった」! けどもういいんだ。あと一週間たてば全てが終わるんだ…

530 : ◆sjehs7tfE6 :2008/01/20(日) 16:27:04.01 0
それからの一週間、あたしは学校ではひっそりと目立たず、とにかくこの一週間をやり過
ごすことにのみ集中した。CD女は最後の猛アタックを仕掛けていたが、あえなく玉砕し
たらしい。そしていよいよ最後の日がやってきた。
帰りのホームルームの時、アイツからのお別れの挨拶があった。ぶっきらぼうに話しだす
アイツ。こんな時くらい愛想良くできないもんかねぇ。とにかくこれで終わりだ。明日に
は前みたいな平和な日々が戻ってくる。頼む、はやく終わってくれ!
「―――みんなのことは忘れません さようなら」 と言い終わったアイツは、軽く会釈
した後、なぜかあたしの方を見た。げっ、何なのよ! はやく席に帰りなさいよ!
ほんの1〜2秒だったと思うんだけど、すっごく長く感じた。あぁ、アイツともこれでお
別れなんだなぁ、とちょっとしんみりしてると、アイツは少しだけ笑った。
んぁ?今笑った。何なのよ、あたし、変な顔してた? それとも笑いかけてくれたの?
ホームルームが終わると、アイツはみんなに囲まれて別れを交わしてた。CD女はその輪
の一番外側でまだめそめそ泣いていた。まったく、こっちが泣きたい気分だよ、とか思い
ながら、あの笑顔の意味なんか到底聞けるはずも無く、とぼとぼと家に帰った。
「終わった 何もかも…」 あしたのジョーよろしくソファにぼーっと腰掛けていると、
買い物に出かけていたらしいママが帰ってきて、いきなりマシンガントークを繰り広げ始
めた。デパートがどうたら、あれが安かったのあの店がおいしかっただの、あたしは全て
右から左へ受け流していた。 「―――のママに会ったのよー あんた同じクラスだった
んだってね はやく言いなさいよー」 へ? 誰? 「何言ってるのよー 明日アメリカ
に立つんだってねー 分かってれば何か―――」 何だ、アイツのことか。ママ、アイツ
のママ知ってんの? 「何、あんた憶えてないのー? 小学校で一緒だったじゃなーい 
ママもPTAで一緒で、あ、一度お家に遊びに行ったのよー またあそこに帰ってきてた
んだってねー」 え、なに? 全然憶えてない。 「それにしても久し振りだったわー
『おでこちゃん』なんてー」 はぁ? おでこちゃん? なんだそれ。 「やだ、どーし
たのよー あんた子供の頃いつもおでこ出してたから『おでこちゃん』って呼ばれてたじ
ゃないのー あそこの子なんか上手に言えなくて『でこちん、でこちん』って―――」
頭が真っ白になった。からっぽの頭の中に、あの頃の記憶が洪水のように蘇ってきた。
「『おばちゃん、でこちんはぼくがまもるから』って、かわいかったわねぇーあの子 もう
ずいぶん立派になったんでしょうねぇー ねえ、どうなのよ!みやび!」
あたしはしゃべり続けるママを無視して自分の部屋へダッシュした。大変な事になった。
てゆうか大変な事をしてしまった。アイツはまだあたしのことを守ってくれてたんだ。
まぁさ!まぁさ!あんたにしか相談できない!! たとえ頭の中にひよこを飼っていても…

531 :あいたいけど…雅の場合 ◆sjehs7tfE6 :2008/01/20(日) 16:30:24.18 0
『もっしー、どったの〜?』 駄目だ、ひよこはますます繁殖を続けているようだ。
しかし他に選択肢は無い。まぁさ、あのね、あのね…
まぁさに全て話した。ひどいこと言ってしまった事も、笑ってくれた事も、昔の事、アイ
ツがあたしの初恋の相手だった事も、アイツが未だに約束を守ってくれている事も…
まぁさは黙って聞いてた。あたしが話し終わった後もずっと黙ってた。おねがい、まぁさ、
お願いだから何か言って! …まさか、ひよこが騒がしくて何も聞いてないんじゃ!?
『みやっ!』 はいっ! 『はやく行きなさい!』 ほぇ? ちゃんと聞いてたんだ!
『みや、あんた今行かないと一生後悔するよ!』 まぁ〜さ〜! そうだよ、心の奥底で
あたしはずっとあんたにそう言って欲しかったんだ。今ならわかる。ありがとう、まぁさ!
『みや、あたしの勝ちだねっ』 は? 何が? 『やっぱ初恋だったんじゃん♪』 はい
はい、あたしの負けですよ。 『いいなぁ〜、初恋の相手とファーストキス!』 いかん、
またひよこが暴れだした。とにかくあたしは行くよ!もう一刻の猶予も無いんだ!
ママにアイツの家の場所を聞き(どこどこの駅前のスーパーの裏の青い三角屋根のでっか
い家っていう非常にあいまいな情報だが)、電車に飛び乗った。うぅ、いつもは快適な電車
が今日はやけに遅く感じる。車掌、頑張れよ!ってマジで言いたくなってくるよ。
やっと駅に着いた。いつもは通り過ぎてしまう駅だ。中学入って3年間、あたし毎日アイ
ツの前を通り過ぎていってたんだね。なんて馬鹿なんだろう。自分の馬鹿さ加減が憎い!
駅前に出て、ママの言ってたスーパーを捜すと…あった! それと共に、またもや記憶の
洪水が押し寄せてきた ―――あたし、ここ知ってる! 体が勝手に動いた。スーパーの
先の路地を曲がると、そう、あそこの角を右に…。連想ゲームのように、頭の中に次々と
映像が浮かんできて、気がつくと青い三角屋根の家の前に立ってた。そう、ここだ!
子供の頃だったから、でっかい家だなぁ、と思ってたけど、今見てもやっぱでかいなぁ。
アイツっておぼっちゃまだったのか。なんか身分違いって感じ? 勢いで来ちゃったけど、
冷静になって考えると何話せばいいんだろう? うぅ、ピンポンが押せない!
そうやってあたしの指がピンポンの前をいったりきたりしてると、「あらぁ、おでこちゃ…
じゃなかった、みやびちゃーん!」というけたたましい声にびっくりして、ついピンポン
を押してしまった。振り返ると、買い物袋を提げたおばちゃんがこっちに走ってくる。
あ、あの人も知ってる。アイツのママだ。「みやびちゃん、キレイになって〜! いつも
DVDとか見てんのよ〜!」そう言いながらおばちゃんはあたしのおでことかほっぺたを
ぺたぺた触りだした。ちょっとちょっと小動物じゃないんだから。そこへ玄関からアイツ
が顔を出した。「ねぇねぇ、おでこちゃん来てくれたわよ〜」…やっぱりこの家ではあたし
は未だにおでこちゃんなんだ。アイツはあたしの顔を見ると、無愛想に「よぉ」と呟いた。

532 :あいたいけど…雅の場合 ◆sjehs7tfE6 :2008/01/20(日) 16:32:06.79 0
おばちゃんは何度も家に上がるように勧めてくれたが、アイツは「ちょっと出てくる」と
だけ言い残してずんずん歩いていった。「もぅ、おでこちゃんを独り占めにしてずるい!」
アイツの背中に向かって叫ぶおばちゃんにぺこりと頭を下げ、あたしはアイツの後を追っ
た。それにしても騒々しい人だ。うちのママとPTAで意気投合したっていうのもなんか
わかる気がする。あんなママからよくこんな無愛想な息子が生まれたもんだ。もしかした
ら父親似なのかな? ―――「おい」 は、はいっ! 「で、どうした?」
いつの間にか公園に着いていた。12月も半ばでもう暗くなりかけている時刻。公園には
人っ子一人見当たらない。言わなきゃ、ちゃんと言葉にして!
「あ、あの、あたし、実は、すっかり忘れちゃってて…」 ―――「俺さぁ」 見かねた
のかアイツの方から話し始めてくれた。助かった!
「日本に帰るって聞いたとき、すっげぇ嬉しかったんだ。またお前に会えるって思って。
お前いつも泣いてたし、まだいじめられてたりしたら助けてあげなきゃって思ってた。
けど日本に帰ってきたら、お前は『ベリーズ工房』とかになってて、テレビの中で歌っ
てた。マジかよ!って思った。お前、キレイになってたし、もう住む世界が違うのかな
って。」 そんなことないよ、お前さん。そりゃああたしのセリフだよ!
「お前、すっげぇ強くなってたし、芸能界って大変なんだろ? 俺、いろいろ調べたんだ。
スキャンダルとかご法度なんだよな。だから俺、お前に近づかないようにした。幸い、
お前も俺のこと気づいてなかったしな。」 だからそれは悪かったって。何故だかデビュ
ーする前の記憶がいまいち曖昧なのよ。にしてもこんな大事なこと忘れるなんて!
「この前は、ゴメンな。」 んぁっ? 何が? 「保健室で。」 ああああぁ! 言わない
で! あんな醜態さらして、忘れたいのよ! お願い、アンタも記憶から消去して!!
「お前の寝顔見てたらさ、なんか昔に戻った気がして。お前、いつも頑張ってんじゃん。
テレビでも、学校でも。変わったのかなって思ってたけど、寝顔見てたら本当はぴーぴ
ー泣いてたあの頃とちっとも変わってないなって思って。」 そうよ、頑張ってるわよ。
アンタがいなくなって、頑張らなきゃ、強くならなきゃって、いつも思ってたわよ。小1
の時にあたしをいじめてた奴らだって、3年生の時にはこてんぱんにやっつけてやったん
だから!
「もう、俺がいなくても大丈夫だよな?」 ぶゎっと涙が出てきた。涙がぼろぼろ、ぼろ
ぼろ、止まらなくなって、気がついたらアイツに抱きついてた。
「そうよ!アンタなんかいなくったって、守ってもらわなくったって、あたし…」
それだけ言うのが精一杯だった。アイツはあたしの頭をなでながら言った。「がんばれよ、
でこちん」8年ぶりの感触を感じながら、あたしはアイツを抱きしめる手に力を込めた。

533 :あいたいけど…雅の場合 ◆sjehs7tfE6 :2008/01/20(日) 16:35:54.06 0
次の日、アイツはロスに行ってしまった。見送りには行かなかった。行ったらそれがアイ
ツと会う最後になってしまうような気がしたから。
「んで、ちゃんと好きって言ったの? 言ったんでしょ〜!?」まぁさの頭の中はひよこで
溢れかえっているようだ。そういえば好きって言ってなかった。アイツも最後まで言わな
かったし。んっ?これってどういうこと?
「なぁ〜んだ、ちゃんと告白したわけじゃないんだ〜。つめが甘いよ、みやびちゃん!
あんた、それじゃピエロだよ!!」 うぅ、うまいこと言うなぁ。でもでも、紅白も見るっ
て言ってたし、大学はこっちの大学に行くって言ってたから3年後には帰って来るんだよ。
「わかんないよ〜。向こうで金髪美女にメロメロになっちゃうかもしれないしぃ〜。」
…まぁさ、あんたはあたしを励ましたいのかい? それとも落ち込ませたいのかい? 
まぁとにかく、それはないな。アイツは8年前とちっとも変わってなかった。多少、いや、
相当無愛想になってたけど。あたし達の関係は「ねじれの位置」なんかじゃなかった。
8年前に初めて会って、こうやってまた出逢えたんだもん。3年後にあたし達はまた出逢う。
あたしはそう信じてるよ。
すごくかっこ悪いけど、人が聞いたら、なんだそれ、ギャグ漫画かよ!って突っ込みたく
なるかもしれないけど、これがあたしの初恋。こんなんでも大切な思い出なんだよ。
なんか寂しかったり、辛いことがあったりすると、息を止めてみるんだ。苦しくなってく
るにつれて、アイツの顔が、あたしにキスしてるときのアイツの顔がだんだん鮮明に思い
出されて、耐えられなくなってぶはぁ〜って息をはくと、アイツが目を真ん丸にしてげほ
げほしはじめるの。するとたまんなくおかしくなって、今でもアイツに守られてるような
気がしてきて、そのうち涙こぼしながら一人でけらけら笑ってるんだ。梨沙子とかきょと
んとした顔で見てるけど、これが今のあたしのストレス発散法。笑っちゃうよね。
そんなことよりお腹すかない? あたし、朝ごはんまともに食べてないんだよね。なんか
おいしいもの食べに行こうよ! ちぃにも奢るって約束してたしさ。

534 :あいたいけど…雅の場合 ◆sjehs7tfE6 :2008/01/20(日) 16:41:48.61 0
途中までタイトルを入れるのを忘れてました スマソです
まだまだいまいちかと思いますが、とりあえず精一杯書きました
御意見、御批評ありましたらよろしくお願いします
<<193-195と比べてどうかって所もよかったら聞かせて下さい

535 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 17:58:43.15 0
wolf

536 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 19:01:26.06 0
とりあえずもうちっと読みやすくしてくれませんか>あいたいけど

537 :名無し慕集中。。。:2008/01/20(日) 19:10:31.95 0
これはあれだな
そういう視覚的な効果を狙っているのに違いない

538 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 19:12:22.72 0
思考なのか台詞なのか本文なのかよくわからない文章苦手だわ
でも頑張って読んだ
星ふたつです

539 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 20:20:20.06 0
俺は独白タイプぜんぜんOK
ありがちな設定の場合読み手が展開を先回りするので書き手の構成力が問われますが
その点軽くずらしてあって面白く読ませていただきました

540 : ◆sjehs7tfE6 :2008/01/20(日) 20:24:02.09 O
読んで下さった方々、ありがとうございます。
とりあえず内容より先に「読みにくい」という評価を圧倒的に戴いてますが、
改行に関しては要改善ですね。
>>538自分では全く気付きませんでした
学生の頃ソノラマとかコバルトとかよく読んでいたので、
その手の文章に全く抵抗感がないもので。
今後も投稿させて頂く時にはよろしくお願いします。

541 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 21:17:34.39 0
 全裸の女が銀座の街を走っていた。金髪にサングラス、そして赤いハイヒールを履いて。
 ショッピング客で賑わう中、目撃した人は「すわ、事件か?、どっきりモノか?」といったノリで、
めいめいの携帯やデジカメで撮影し、追いかけた。ぱっと現れ、すぐに消えたその女のニュース
は、たちまちワイドショー番組で取り上げられ、素人撮影の映像がモザイク入りで全国に流れた。

 「なんだったんだろうね?、あれ」 「どっかの局の企画じゃない?」
 「大学のサークルとか?」 「どっちにしろ、マトモじゃないよね」

 これだけ世間を騒がせれば、やはりモーニング娘。の楽屋内でも話題になるものだ。っていうか
新垣さん、楊枝をくわえながらスポーツ新聞を見るのやめてください。

 「おっはよーございまーーっす!」 「あ、さゆ、おはよ」 「ってか!、なにそのかっこう!!!」

 甲高い声で登場したさゆは、こともあろうに金髪のウィッグ、おでこにサングラスをのせ、極めつ
けに赤いハイヒール。衣装こそ着ていたものの、普段のさゆの私服姿とはかけ離れた、ボディコン
ピンクのワンピース…。たちまち凍りつく楽屋内。どうにか声を振り絞るようにして新垣さんが問う。

 「あ、あんたそのカッコで電車乗ってきたの?」 「はい?」 「ちょ、ちょーKY…」
 「いけませんか?」 「さゆ、知らないの?」 「え?、なんのハナシですか?」
 「これ、見てみぃ…」 「え?、どれどれ?、んーと…、あっ!!」

 やっとこさ事情をつかみ、必然的に凍りついたさゆを、私はその袖を引っぱり別室に連れ込んだ。
二人きりでハナシを聞こうかと。その衣装どうしたするんだと。しかし、さゆは他の誰も見ていないの
を確かめてから、私に小さくピースをしてみせたのだ。

 「さゆ、まさか?!」 「ウ・ソ・ダ・ヨ♪」 「びっくりしたぁ、でもなんでそんな格好してきたのよ?!」
 「だって私、『かわいい』だけじゃないんだよって…思ってさ!」 「はあ?」 「この格好すれば、
  みんなが注目するでしょ。顔じゃなくて、スタイルに注目してくれるでしょ。私は顔だけじゃない
  んだぞ!って、さ。えりもやってみたら?、視線がささるよぉw」 「ダメだこりゃ」
おしまい


542 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 21:24:08.36 0
明日の自分に読ませてから書き込んでくれ
以上

543 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 21:32:20.72 0
自分が亀井である事に最後まで気付かなかった

544 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 22:06:05.84 O
>>542禿同!

545 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 22:17:25.69 0
>>541
日本語めちゃくちゃ

546 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 22:21:42.58 0
幼馴染スレ思い出した

547 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 23:30:45.91 0
今の内に書くか

548 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 23:31:39.64 O

>>533あんた、それじゃピエロだよ!!

ここワロタ

最後の一文が良かった 明るく前に歩き始める少女の心情が表現されてる気がして
深読みし過ぎか?

549 :名無し募集中。。。:2008/01/20(日) 23:54:27.10 0
>>548
意識したにしろ無意識にしろそういうことなんじゃない?
俺もそこは好きだよ<最後の

550 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 01:28:26.69 0
ウルフ

551 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 04:07:26.80 0
新作募集中。。。

552 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 07:22:07.76 0
さみ

553 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 10:54:45.43 O
期待あげ

554 : ◆sjehs7tfE6 :2008/01/21(月) 12:34:40.67 O
>>548-549
そう言って頂けると嬉しいです。
別れの後なので湿っぽくなりがちですが、明るく終わらせたかったので何度も書き直した所です。
この一週間結構頑張ったので、暫く休んで次の執筆に入りたいと思います。
次作もよろしくお願いします。

555 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 15:20:32.77 0
ウルフ

556 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 17:13:16.74 O
ウルフッフ

557 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 18:51:20.60 0
uruhu

558 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 20:33:33.35 0
ウルフ

559 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 21:35:41.60 0
1つの画像からキモイ妄想をするスレの残党なんですが
このスレに投稿してもいいですか?

560 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 21:42:38.18 0
稚拙な作文は罵倒されるのを承知でなら

561 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 21:43:54.04 0
>>560
罵倒したいなら向こうに書きなよ

562 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 22:06:38.45 0
ウルフはどなたの作品も歓迎しておりますよ

563 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 22:08:07.63 0
本当にひどい作品は実はそれほど叩かれないので安心して良い

564 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 22:09:04.53 0
画像貼りもするっていうなら新スレ立てたほうがよくね

565 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 22:12:59.95 0
既存スレのスタンスでこのスレを乗っ取るつもりなのか?

566 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 22:14:21.81 0
画像はなしだろ
ましてやあの愚にもつかない妄想が中身ならなおさら

567 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 22:15:30.72 0
559じゃないけど
文章量を増やしてもらって、参考程度に向こうに画像を貼るとかならアリなんじゃない?
挿絵みたいな気分で

568 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 22:18:58.73 0
僕はなんたらかんたら〜君はなんたらかんたら・・・っていうど素人の無学な人間が
詩を書いてみました的なやつやめてな
虫唾が走るんで

569 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 22:23:30.33 0
なんか30年前のエロ本みたいだな

570 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 22:25:49.04 0
>>568
恋愛系の小説ならそれも一つの形だろ
止める権利はないな
ダメなら読まずにとばせばいいっしょ

571 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 22:27:32.42 0
イタイこと言ってんなよ低学歴

572 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 22:28:25.02 0
キモイはあのスレだからこその褒め言葉だっただけで
他の場所じゃ普通にキモイんだよ

573 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 22:35:21.90 0
まあ俺が書くわけじゃないから構わんけど
そうやって門戸を狭めていけばいいんじゃね?

574 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 22:37:28.67 0
ちょっと待てお前ら
画像妄想スレから来たからといって内容が一緒とは限らないぞ
ここはひとまず投稿を待つことにしようじゃないか

575 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 22:46:29.51 0
文章が稚拙で耐えられないような人はそもそもここに・・・なあ

576 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 22:49:36.08 0
>>575
そんなことないってw
どこにでも冴えてる人っているものなんだよ不思議と

577 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 22:49:38.29 0
荒らしたいだけだから

578 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 23:00:28.65 0
投下するならそのスレを見たことない人にも理解できるものをお願いね

579 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 23:16:35.61 0
場違いでしたね
スレを汚して申し訳ないっす
止めときます。失礼しました


580 :読み切り ◆GfCzY7k762 :2008/01/21(月) 23:44:55.44 0
 『ジグソーパズル』

田中がトイレから楽屋に戻ると待機中のメンバー全員が
椅子を除けたり、棚の下に手をつっこんだり、給水ポットの中を覗いたりしていた。

「どうしたん?」
「ああれいなも手伝って……ってれいなは嫌か」
「嫌かどうか聞かなきゃわからん」

亀井の話によると前から道重がコツコツ作っていたジグソーパズルのピースが
一つなくなったらしく、しかもそのピースが最後のピースらしい。
他のメンバーはちょいちょい手伝っていたので、心待ちにしていた完成を目前に
消失した最後のピースを躍起になって探している。

「なんの部分がなくなったの?」
「ここ。大きな雲のちょうど真ん中」

咲き誇る一面のひまわり畑に澄み渡る高い空、そこに浮かぶ綿飴のような雲の
中心にポッカリ穴が開いていた。凹が三つに凸が一つのピースの輪郭。

「れいな知らない?」
「知るわけないじゃん。れいな触ってもいないし」

田中はこのチマチマとした作業が嫌いで一人だけ参加していなかった。
自分のものになるわけではないものに神経を使いたくなかったからだ。

「その穴のところに白い紙でも敷いとけば?」
「それじゃパズル完成っていわないよ」
「遠くから見れば誰もわからないって。気にしなきゃ大丈夫」

そう言うと田中は白いスーツの男に呼ばれ、楽屋を出ていった。それ以来田中は消息を絶った。
田中が消えて一ヵ月。彼女達は全国ツアーのレッスンに励んでいる。      -オワリ-

581 :名無し募集中。。。:2008/01/21(月) 23:50:32.76 0
すこぺっそすだな

582 :名無し募集中。。。:2008/01/22(火) 01:20:16.13 0
だな

583 :名無し募集中。。。:2008/01/22(火) 01:23:33.57 0
>>581
>>582
君も書いてよ

584 :名無し募集中。。。:2008/01/22(火) 05:21:37.00 O
ウルフ

585 :名無し募集中。。。:2008/01/22(火) 09:47:27.12 O
ウルフ

586 :名無し慕集中。。。:2008/01/22(火) 11:08:14.32 0
ワッフル

587 :名無し慕集中。。。:2008/01/22(火) 12:27:18.46 0
ワッフルワッフル

588 :名無し募集中。。。:2008/01/22(火) 12:29:06.77 0
すこぺっそすってなにかと思ってググっちゃったよ
使わないなこういう嫌われる表現は

589 :名無し募集中。。。:2008/01/22(火) 14:55:14.33 O
落とさないゆー

590 :名無し募集中。。。:2008/01/22(火) 17:04:40.34 O
ウルフ

591 :名無し募集中。。。:2008/01/22(火) 19:05:52.61 O
ほぜん

592 :あばばばば:2008/01/22(火) 19:09:59.69 0
あばばばば

 保男はほぼ毎日このタバコ屋に通っている。
 キャバクラの客引きのバイトを時給の高さに釣られて始めてからだから半年くらいか。
 キャバクラの開店準備のひとつに、人気銘柄のタバコを店内に揃えておくというのがあった。
 これを怠ると深夜、1時間に2回は遠くのコンビニにタバコを買いに走るはめになる。
 それでなくても1日数回は店に買い置きしていない銘柄をほしがる客が現れ、そのたびに走るのは保男だった。
 買い置きタバコの準備はバイトの仕事なので保男がやった。
 昨日の残りを見て必要分をメモにとり、そのメモをタバコ屋のお上に渡し、勘定をすませてタバコを持ち帰るだけの雑用だ。
 「たばこ」と白で抜いた赤い看板を軒先に掲げ、2台のタバコの自動販売機にはさまれた、小さな販売窓のいわゆるタバコ屋である。
 いわゆるタバコ屋であるが中の棚にはタバコのカートンと並んで様々な種類の珈琲豆の袋が置いてあった。
 たいがいが無人であり、窓に顔を突っ込んで大きな声で呼ぶとお上と犬が奥からでてきた。人の良さそうな痩せたお上とミニチュアダックスフンドだ。
 保男は初めてここを訪れ勘定をすませている際、どうにも気になった珈琲のことを聞いた。
「この店は珈琲も売っているのかい」
「売ってますよ」
「挽いたりはしてくれるのかい」
「それはしてません」
「ふむ」
 保男は珈琲の味が分かる男でもなく、もちろん買うつもりでもなかったのでその日はそれだけで終わった。
 後のお上との世間話の中で、ご主人の珈琲好きが高じたおかげで輸入高級豆のインターネット販売を極小規模に行っているのを聞いた。
 ついでに店先でも売っているのだそうだ。

593 :あばばばば:2008/01/22(火) 19:10:33.08 0
 ミニチュアダックスフンドの名はピーチと言い、たいそう可愛かった。
「よしよし、ピーチ、おまえは頭が良くてかわいいな」
 いつのころからか、窓から体を乗り入れ、こう言って犬の頭を撫でるのが日課になっていた。
 ピーチはひとしきり保男に頭を撫でさせ気持ち良さそうにすると奥に戻っていった。その間にお上がメモのタバコを揃えるという寸法だ。
 ある時はライターやガムをサービスに貰い、時に世間話をし、犬と戯れる。ギスギスした夜の生活から浮世離れした退屈で幸せな買い物の時間だった。
 日が格段に長くなり、歩いているだけでじっとりと汗がにじみ出てくるある夕暮れ、その店に変化が訪れた。
 販売窓の向こうに少女が座っているのである。
 天然茶髪であろう細い巻き毛を後ろで斜めに結わえていた。肌もぬけるように白い。全体に色素が足りていない。
 中学生くらいであろうか。顔は猫に似ている。
 一筋も混じり毛の無い白猫に似ている。
 保男はおやと思いながら、販売窓の前へ歩み寄った。
「タバコもらえるかい」
「はい」
 少女の返事は恥ずかしそうである。メモを受け取るのもオドオドしていた。
 のみならず出したタバコもメモとまったく違う。
 保男は思わずタバコから少女の顔へ目を移した。同時にまた、少女の頬に長い猫の髭を想像した。
「赤マルは赤い○じゃなくマルボロさ。こりゃラッキーだ」
「あら、どうもすみません」
 猫・・・いや、少女は赤い顔をした。この瞬間の感情の変化は正真正銘にお嬢さんだ。
 それも当世のお嬢さんではない。
 平成になり後を絶った昭和趣味の映画ヒロインである。
 その間も少女はメモとタバコの棚を交互に見返し、なにやら探そうとはしていたらしい。
 すると奥から出て来たのは例の痩せたお上である。
 お上は保男を一目見ると様子を察したらしい。メモを手に取ると手際よくタバコを揃えた。
 保男に対するような商売用の笑みでない微笑が浮いていた。
「ライターは?」
 少女は見た目も猫ならば、声も喉を鳴らしそうに媚を帯びている。
 お上は返事をする代りにちょいと肯いた。
 少女は咄嗟に勘定台の上へ使い捨てライターを一つ出した。それから、もう一度恥ずかしそうに笑った。

594 :あばばばば:2008/01/22(火) 19:11:08.45 0
「どうもすみません」
 すまないのは何もメモのタバコを揃えられなかったばかりでない。保男は二人を見比べながら、彼自身もいつか微笑したのを感じた。
 少女はその後いつ来てみても、販売窓に座っている。といっても保男は夕方の6時から7時の間に訪れることしかないのだが。
 何日たっても客に対する態度は相変わらず初々しい。
 応対はつかえる。品物は間違える。おまけに時々は赤い顔をする。
 保男はだんだんこの少女にある好意を感じ出した。さすがに恋愛ではない。
 ただ如何にも人慣れない所に気軽い懐かしみを感じ出したのである。
 ある蝉の鳴き声がうるさい夕方、少女の隣に顔を現したピーチを撫でるために身を乗り入れると、少女の足元に算数の教科書が見えた。
「お嬢さんは小学生かい」
「はい」
「大人っぽいな。中学生だと思っていたよ」
 少女は顔を赤くしてうつむいた。
「好きな子いるだろ。女の子は好きな男の子がいると、大人っぽくきれいになっていくからな」
 顔を上げた少女の目はオドオドしている。
 滑稽なことに何か言おうとパクパクさせる口から発せられる言葉が「あばばばばば」と聞こえる。
 保男は少女と目を合わせた刹那に突然悪魔の乗り移るのを感じた。
 この少女はいわばオジギ草である。一定の刺激を与えさえすれば、必ず彼の思う通りの反応を表すに違いない。
 しかも刺激は簡単である。
 じっと顔を見つめても好い。或いはまた指先に触っても好い。少女はきっとその刺激に保男の暗示を受け取るだろう。
 受け取った暗示をどうするかは勿論未知の問題である。
 しかし幸いに反発しなければ、・・・・・いや、猫は飼っても好い。が、猫に似た少女の為に魂を悪魔に売り渡すのはどうも少し考えものである。
 保男は静かに深呼吸し、吐く息と一緒に乗り移った悪魔を吹き払った。
 不意を食らった悪魔はとんぼ返る拍子にお上の鼻の穴へ飛び込んだのであろう。奥からお上のくしゃみが聞こえた。

595 :あばばばば:2008/01/22(火) 19:11:39.88 0
 ある残暑の厳しい日、保男はタバコを買ったついでにこの店で電話を借用した。
 保男の携帯に勤め先のキャバクラから電話が入ったものの、応対しようとすると電池が切れてしまった訳だ。
 お上は夕日の当たった店の前に空気ポンプを動かしながら、自転車の修繕に取り掛かっている。
 少女は相変わらず販売窓の奥に何か整理している。
 豆腐屋の笛と近所の小学生達の戯れる声がどこともなく聞こえてくる。
 こういう光景はいつ見ても悪いものではない。保男が幼少を育った昭和と変わらぬ光景は物静かな幸福に溢れている。
 走ってキャバクラまで戻ってもよかったがなんとなくこの店で電話を借りた。借りて正解だった。
 100万からの上客を同伴させるとホステスの一人から連絡を受けたとのことだった。
 ロマネコンティの良いところと白ワイン数本酒屋に注文入れたのでタバコのついでに取りに行って来い、と。閉店時間を過ぎた酒屋が配達には応じてくれなかったらしい。
 久々の大口客に店長はすこぶる機嫌が良く、大袈裟に話に乗ったり驚いたりしあげてるうちにすっかりと無駄話を聞かされてしまった。
 やっと電話を終えたのは10分ばかり後である。
 保男は礼を言うために顔を上げた。するとそこには誰もいない。少女はいつの間にか店の戸口に何かお上と話している。
 保男はそちらへ歩き出そうとした。が、思わず足を止めた。
 少女は彼に背を向けたまま、こんなことをお上に尋ねている。
「さっきね、おばさん、ブルマとかってお客があったんだけどね、ブルマ珈琲ってあるんですか?」
「ブルマ?」
 お上の声は少女に対して非常に柔らかい。
「ブルマンの聞き間違いだろう。ブルーマウンテン」
「ブルーマウンテン?何だか可笑しいと思っていた。ブルマって体操服でしょう?・・・あぶないおじさんかと思っちゃった」
 保男は二人の後ろ姿を眺めた。同時に天使の来ているのを感じた。
 天使は夕日に照らされ眩しく目を細めながら、何にも知らぬ二人の上へ祝福を授けているに違いない。

596 :あばばばば:2008/01/22(火) 19:12:10.92 0
「おい、嬢さん、このガムをくれ」
 少女は振り返った。振り返ったのは丁度可哀想な客が変態あつかいされた時である。
 少女は勿論その話を聞かれたと思ったのに違いない。猫に似た顔は目を挙げたと思うと見る見る恥ずかしそうに染まり出した。
 保男は少女が顔を赤めるのには今までにも度々出合っている。けれどもまだこの時ほど、まっ赤になったのを見たことはない。
「は、ガムを」
 少女は小声に問い返した。
「ええ、ガムを」
 保男も前後にこの時だけは甚だ殊勝に返事をした。
 こう云う出来事のあった後、1週間ばかりたった頃であろう、確か9月に入ったばかりのことである。少女は何処へどうしたのか、ぱったり姿を隠してしまった。
 それも3日や5日ではない。いつ買い物に行ってみても、例の痩せたお上とミニチュアダックスフンドがいるばかりである。
 保男はちょいともの足らなさを感じた。また少女の見えない理由にいろいろ想像を加えなどもした。
 が、お上を「おばさん」と呼んだ少女と、少女を愛しそうに見つめるお上との関係に思い配ると「お嬢さんは?」と軽々しく尋ねる心もちにならない。
 その内に秋も正月も過ぎ冬ざれた路の上にも、たまに1日か2日づつ暖かい日かげがさすようになった。けれども少女は顔を見せない。
 保男はいつか少しずつ少女のいないことを忘れだした。
 1年後、保男はキャバクラの社員となり、この店に買い物に来ることもなくなった。
 系列店舗を転々と回され、今の店舗に戻ってきたのは更に3年後。保男は店長になっていた。
 警察に営業許可とビラ配りの道路使用許可を申請に赴いてキャバクラに向かう途中、例のタバコ屋を思い出した。
 常連客の中に珈琲好きが一人いた。
 あのタバコ屋には輸入物の珍しい珈琲豆が置いてあるはずである。話の種に一つ買っていってやろう。
 店の前には少年が一人、販売窓越しに中の少女と楽しそうにしゃべっている。二人とも近所の高校の制服だ。
 保男は幅の広い電燈の光りにその制服の少女が誰であるかを発見した。
 店に近づくと少年はうやうやしく場所を開けた。
 少女の目に保男の記憶はないようである。
 隣のミニチュアダックスフンドがパタパタと尻尾を振っている。4年の歳月にこの犬は保男を憶えてるというのだろうか。

597 :あばばばば:2008/01/22(火) 19:12:52.62 0
 保男に記憶の片隅に消えていた犬の名前が急速に浮かび上がった。
「よしよし、ピーチ、おまえは頭が良くてかわいいな」
 4年前と同じように、販売窓から体を乗り入れ犬の頭を撫でてやった。
「君の彼氏かい?」
 少年にも聞こえる大きな声で、二人を交互に探りながら保男は尋ねた。
「・・・・・・・・」
 途端に少女は顔をまっ赤にして口をパクパクさせた。
「あばばばばばば」
 言葉にならない声を発して更に顔を赤くする。
 少年も恥ずかしそうにそっぽ向いた。
「すまん、すまん、珈琲をくれ」
「は、はい。私、珈琲はあまりわからなくて」
 少女は慌てて立ち上がると逃げるように店の奥に消えてしまった。
「お母さーん、珈琲のお客さーん」
 店の奥から少女の声が聞こえるとしばらくして痩せたお上が現れた。
 保男は珈琲を選んで貰って店を後ろにしながら、我知らずにやにや笑い出した。
 少女はまだ「あの少女」だ。
 色っぽく成長し、初々しい恋愛をし、お上を「お母さん」と呼んだ。
 4年の歳月は着実に変化をもたらしながら、少女の少女たる部分を残している。
 しかしまだ高校生。彼女も今後さらに成長し、「女」になりやがて「母」になるだろう。
 保男は歩みつづけたまま、茫然と家々の空を見上げた。空には南風の渡る中に円い春の月が一つ、白じろとかすかにかかっている。

 終わり

 芥川龍之介「あばばばば」より
 青空文庫
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598 :名無し募集中。。。:2008/01/22(火) 20:58:39.68 0
よいアレンジだな

599 :名無し募集中。。。:2008/01/22(火) 22:08:03.44 0
ウルフ

600 :名無し募集中。。。:2008/01/22(火) 23:08:14.27 0
ウルフル

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