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ガキさん☆昭和喫茶店 8店舗目☆カメちゃん

707 :名無し募集中。。。:2006/12/25(月) 02:17:52.60 0
今年一番の寒さが東京に訪れたその日。
木々は北風に打ち震え、寒空に寂しげな骨格をさらしていた。
しかし、夜の帳が降りる頃には、イルミネーションという光の衣が彼女達を包むだろう。
新垣里沙は目を細め、聖なる夜の訪れに思いを馳せていた。
きょうはクリスマス・イブ。世間が一年で最も浮かれる日だ。
それにも関わらず、里沙はこれからバイト先の喫茶店に向かう途中だ。
学校の友人たちは合コンだパーティーだと楽しそうだが、自分の場合はそうも言っていられない。
何しろ、尊敬する安倍なつみさんのハワイツアーに参加する軍資金を稼がねばならないのだ。
それに、バイト先もクリスマスフェアで何かと忙しい。
売り上げにうるさいマスターは、珍しく特別メニューを考えたりなんかして、気合いが入っている。
「がまんがまん。常夏の島となっちの笑顔が私を待ってるぞ、と・・・」
その時、里沙の肩がドンと勢いよく叩かれる。
「やっほー、ガキさん!早くお店に出ないとマスターに怒られるよぅ」
振り返ると、バイト仲間の亀井絵里がいつもの笑顔を浮かべて立っていた。
「かめ〜!あんたに言われたくないから〜」
そう突っ込まれると、絵里は「うへへへ」と恥ずかしそうな声を漏らした。
彼女の笑顔には、人を和ませる不思議な力がある。
普段はお姉さん気取りでいろいろ世話を焼いている里沙も、そんな絵里に救われることが多々あった。
「さあそろそろ行かなきゃね。エビを茹でたりとか色々仕事あるし」
「え〜、あれってエビとカニどっちだっけ?」
「だぁからエビだって言ってるでしょうがぁ!」
二人はキャーキャーと夫婦漫才を繰り広げながら、私鉄沿線の学生街の片隅にある喫茶店へと向かった。

708 :名無し募集中。。。:2006/12/25(月) 02:18:39.05 0
この時期の学生街は閑散としていそうなものだが、冬休み中も研究に出ている院生や、帰省せずダラダラ
と過ごしている学生たちでそれなりにお客さんはいるものだ。
「おっはよーございまーす!」
勢いよくドアを開けると、看板猫のれいなが鈴を鳴らしながら絵里の足元にじゃれついてくる。
「れいにゃー、もうカルカンはもらったの?」
絵里は嬉しそうに彼女を抱き上げ、ゴロゴロとなる喉を指でくすぐった。
「アンタたち遅いよ〜早く仕度しな」
店の奥の方から、けだるげな声のマスターが現れた。
「ああそうそう、マメ、カメ、ちょっと頼まれごとしてくれるかな」
「何ですか?」
「ちょっと駅前交番まで行って、婦警さんに忘れ物届けてあげて」
「あ〜、あの昨日の夜のんだくれてた・・・」
「そうそう。正体無くして、大事な物忘れてったのよ。あたしも付き合って二日酔い気味・・・」
マスターはそういうと、黒光りする皮の手帳を渡してきた。
「こ、これってまさか・・・」
「そいつがなきゃ商売あがったりだろうにねぇ」
そういう問題じゃない・・・と心の中で汗をかきながら、里沙と絵里は商店街を抜けて交番へと向かった。

709 :名無し募集中。。。:2006/12/25(月) 02:19:19.90 0
道すがら、里沙は妙な視線を感じて立ち止まった。
絵里が勢い余って背中にぶつかった。
「いたーい、ちょっとガキさーん!」
絵里は文句をつけようとしたが、里沙の視線を追うとはっと言葉をのんだ。
時代の流れから取り残されたような古い洋館が道端にたたずんでいる。
壁にはツタがからまり、古色蒼然という形容詞がぴったり当てはまる。
「こんなところにこんなお屋敷あったっけ・・・?」
二人ははいぶかりながら、好奇心に突き動かされて鉄柵越しに中の様子をうかがった。
二階では白いカーテンが風に揺られている。まるで里沙と絵里を手招きしているかのようだ。
「気味が悪いよガキさーん・・・」
絵里がギュっと手を握ってくる。
「そ・・・そうだね、先を急ごうかカメ」
その時、屋敷の中から絹を裂くような女性の叫び声が聞こえてきた。
「ど、どうしよう、何かあったのかな」
「早くおまわりさんを呼ばないと!」
もう一度、今度はもっと切迫したトーンで女性の声が響く。
助けを求めようとまわりを見ても、こういう時に限って誰もいない。
「えーい、見捨てておけないよ!」
「ちょっとガキさーん、オバケとか出てきたらどうするのー?」
「大丈夫、オバケは触れない約束になってるから!」
里沙は錆びた門扉を押し開くと、勇躍庭先に飛び込んだ。
絵里もしぶしぶと後に続く。

710 :名無し募集中。。。:2006/12/25(月) 02:20:05.34 0
屋敷の中は薄暗かった。このご時世に灯りは蝋燭だけ。
西洋風の甲冑やトラの剥製といったいかにもなオブジェが、ほのかな灯りの中に浮かび上がる。
炎がゆらめいているせいで、壁際の肖像画の目が一瞬だけ動いたように見えた。
絵里は思わず里沙にギュッと抱きついた。
「ガキさーん、やっぱり帰っておまわりさん呼ぼうよぉ」
「しっ、手遅れになったらどうするの。声は二階から聞こえたから、あたしは行くよ。カメは怖かったら
帰っていいから」
「えー、一人じゃ無理だよう」
里沙はギシギシと鳴る階段を上がっていく。絵里も仕方なくそれに付いていった。
二階に上がると、わずかに開いた扉があり、中から光が漏れている。
里沙がおそるおそる扉を開くと、中で髪の長い女性が床に倒れていた。
「すいません、大丈夫ですか!?何かありました?」
女性は助け起こされると、ううっという呻き声をあげ、目を開いた。
「ツリーが、大切なクリスマスツリーが賊に・・・」
「賊って・・・泥棒?ガキさん、110番しなきゃ!」
絵里は携帯電話を取り出すが、なぜか圏外だ。
「もう、こんな時に!さっきまで三本立ってたのに〜」
「お願い、大事なツリーなんです。マルティン・ルターが世界で初めて作ったクリスマスツリーから株分けした
木を使った、世界に二つとない貴重な・・・。賊は鐘楼に逃げました。今ならきっと、まだ間に合うはず・・・」

711 :名無し募集中。。。:2006/12/25(月) 02:20:42.09 0
女性は必死に懇願してくる。それを断れるほど、里沙は薄情ではなかった。
「まかせてください!ぜったいにこの事件を解決してみせます!」
「ああ素敵、まるで明智探偵のようだわ・・・」
里沙と、ようやく腹を決めた様子の絵里は急いで螺旋階段を上がり、屋上の鐘楼へと向かった。
そこには黒いマントを翻した小柄な人影が。なぜか巨大なクマの縫いぐるみも一緒だ。そのクマがクリスマス
ツリーを小脇に抱えているのが分かった。
「追い詰めたよ、さぁそのツリーを返しなさい!」
「あらまぁ、もう来ちゃった。早いなー」
その人影は女性だった。しかも、思った以上に若い。おそらく里沙や絵里より年下ではなかろうか。
「泥棒はうそつきの始まりですよ!」
「カメ、それ逆に覚えてるから」
言い合う二人をよそに、女性は垂れ下がっているロープに手を伸ばす。
ロープの先には気球がつながれていた。
「このツリーはうちのサーカスの目玉にするのでーす。何しろオリジナル・ツリーの子孫!
こんど上野界隈で旗揚げするから来てほしい☆カナ?」
女性の足がふわりと宙に浮く。その時、風が絵里の体にまとわりついていたれいなの毛を飛ばした。宙を飛んだ毛
は女性の鼻先にまとわりつく。
「へっくしっ!」
くしゃみをした拍子に女性がロープから手を放した。落下しそうになったところを、クマがかろうじて手で支え
る。代わりに、小脇に抱えていたツリーが落ちてしまった。
「危ないっ!」
意外とパワーがある絵里が、それをしっかりと抱きとめた。
「くっそー、覚えてなさいよー!」
天空から悔しそうな女性の声が降ってきた。

712 :名無し募集中。。。:2006/12/25(月) 02:21:18.34 0
「やったねぇ、さっきの女の人に返してあげようか!」
絵里がいそいそと鐘楼を出ようとする。
里沙はふと辺りを見回すと、周囲に高い建物がまったくないことに気が付いた。
昭和初期に建てられたという大学の講堂が、遮るものなく視界に入る。しかもそれは、なぜか妙に新しく見えた。
「ガキさーん、はやくはやくぅ」
絵里に急かされ、里沙は何か引っ掛かりながらも階下へと向かった。
二人は女主人に歓待され、本来の目的も忘れてすっかりご馳走になってしまった。
「助けていただいたお礼に、二人の名前が入ったプレートをツリーに付けますね」
食べ過ぎたせいでうとうとしながら、二人は女主人の言葉を聴いていた。

713 :名無し募集中。。。:2006/12/25(月) 02:22:01.75 0
「おーい、こんなとこで寝てたら風邪ひくでぇ」
聞き慣れた声で目を覚ますと、駅前交番の婦警さんがあきれた様子で見下ろしていた。
二人は閉店した商店のシャッターを背に倒れこんでいたのだ。
「けーちゃんとこのお嬢ちゃんたちやんな?ウチに忘れ物届けてくれるっちゅうから待ってたら、全然来ぃへんし。
迎えに行こうと思ったら道端で寝とってびっくりしたわ」
「あれ・・・洋館は?」
「ようかん・・・?何のこっちゃ?」
「さっきまでお屋敷の中にいたんですけど・・・」
「あぁ、ずいぶん昔にはこの辺にお屋敷があったそうやけど、戦災で焼けたって話やで」
二人は狐につままれたような気分で喫茶店へ帰った。
「どこで道草食ってたのかねぇ、まったく」
マスターが皿を拭きながらぶつくさ言っている。
「やぁ、里沙ちゃんカメちゃん、イブもお仕事なんて大変だねぇ」
雑誌を手にした常連さんがにこやかに話しかけてくる。
二人は、その雑誌のクリスマスツリーの記事に目を奪われた。
「あぁコレ?本当かどうか分からないけど、世界で最初のクリスマスツリーから株分けした木で作った珍しいツリーなん
だってさ。昔この辺りに住んでいた華族から博物館に寄贈されたんだけど、根元にプレートが貼ってあってね。何が書
いてあるかまでは分からないんだけど・・・」
二人は呆然とその話を聞いていた。
「夢じゃなかったんだ・・・」
「確かに見覚えがあるもん、あのツリー」
外では雪が降り出していた。東京はホワイトクリスマスを迎えようとしていた。

714 :名無し募集中。。。:2006/12/25(月) 02:23:55.79 0
長文連投申し訳ない
藤子先生のS(すこし)F(ふしぎ)シリーズのノリで書いてみました
深夜の保全がわりと思ってご笑読くださいませ

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0ch BBS 2005-12-31