スレ大杉なんで2chブラウザ推奨

これ参考にがんばって!!1 → 板追加手順

■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 最新50
【太宰】走れポメラニアン【小説】

1 :名無し募集中。。。:03/10/09 20:50
かいて

81 :名無し募集中。。。:03/10/10 02:24
「そうです。帰って来るのです。」ポメラニアンは必死で言い張った。
「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。娘。が、私の帰りを待っているのだ。
そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にまきばおうという競走馬がいます。私の無二の友人だ。
あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰ってこなかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ。そうして下さい。」

82 :名無し募集中。。。:03/10/10 02:27
 それを聞いて会長は、残虐な気持で、そっと北叟笑(ほくそえ)んだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白い。
そうして身代りの雄を、三日目に殺してやるのも気味がいい。人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの雄を磔刑に処してやるのだ。世の中の、正直者とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。
「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」
「なに、何をおっしゃる。」
「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」
 ポメラニアンは口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。

83 :名無し募集中。。。:03/10/10 02:33
 竹馬の友、まきばおうは、深夜、アザブビルに召された。暴君キヤマザの面前で、佳き友と佳き友は、二年ぶりで相逢うた。ポメラニアンは、友に一切の事情を語った。
まきばおうは無言で首肯き、ポメラニアンをひしと抱きしめた。友と友の間は、それでよかった。まきばおうは、縄打たれた。ポメラニアンは、すぐに出発した。初夏、満天の星である。
 ポメラニアンはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到着したのは、翌る日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。
ポメラニアンの十六の娘。も、きょうは愛犬の代りに羊群の番をしていた。よろめいて歩いて来る愛犬の、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさくポメラニアンに質問を浴びせた。
「なんでも無い。」ポメラニアンは無理に笑おうと努めた。「市に用事を残して来た。またすぐ市に行かなければならぬ。あす、結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」
 娘。は頬をあからめた。

84 :名無し募集中。。。:03/10/10 02:41
「うれしいか。綺麗な衣裳も買って来た。さあ、これから行って、村の人たちに知らせて来い。結婚式は、あすだと。」
 ポメラニアンは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。
 眼が覚めたのは夜だった。ポメラニアンは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。そうして、少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。
婿の牧人は驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、葡萄の季節まで待ってくれ、と答えた。ポメラニアンは、待つことは出来ぬ、どうか明日にしてくれ給え、と更に押してたのんだ。
婿の牧人も頑強であった。なかなか承諾してくれない。夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せた。

85 :名無し募集中。。。:03/10/10 02:53
結婚式は、真昼に行われた。新郎新婦の、神々ヘの宣誓が済んだころ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。
祝宴に列席していた村人たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引き立て、狭い家の中で、むんむん蒸し暑いのも怺え、陽気に歌をうたい、手を拍った。
ポメラニアンも、満面に喜色を湛え、しばらくは、会長とのあの約束をさえ忘れていた。祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。
ポメラニアンは、一生このままここにいたい、と思った。この佳い人たちと生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。ままならぬ事である。

86 :名無し募集中。。。:03/10/10 03:01
ポメラニアンは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。あすの日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。
その頃には、雨も小降りになっていよう。少しでも永くこの家に愚図愚図とどまっていたかった。ポメラニアンほどの雄にも、やはり未練の情というものは在る。
今宵呆然、歓喜に酔っているらしい花嫁に近寄り、
「おめでとう。私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。眼が覚めたら、すぐに市に出かける。大切な用事があるのだ。
私がいなくても、もうおまえには優しい亭主があるのだから、決して寂しい事は無い。おまえの犬の、一ばんきらいなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ。
おまえも、それは、知っているね。亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの犬は、たぶん偉い雄なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」

87 :名無し募集中。。。:03/10/10 03:03
 花嫁は、夢見心地で首肯いた。ポメラニアンは、それから花婿の肩をたたいて、
「仕度の無いのはお互いさまさ。私の家にも、宝といっては、娘。と羊だけだ。
他には、何も無い。全部あげよう。もう一つ、ポメラニアンの飼主になったことを誇ってくれ。」
 花婿は揉み手して、てれていた。ポメラニアンは笑って村人たちにも会釈して、宴席から立ち去り、羊小屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。


88 :名無し募集中。。。:03/10/10 03:05
 眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。
ポメラニアンは跳ね起き、南無三、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。
きょうは是非とも、あの会長に、人の信実の存するところを見せてやろう。そうして笑って磔の台に上ってやる。
ポメラニアンは、悠々と身仕度をはじめた。雨も、いくぶん小降りになっている様子である。身仕度は出来た。さて、ポメラニアンは、ぶるんと尻尾を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。

89 :名無し募集中。。。:03/10/10 03:10
 私は、今宵、殺される。殺される為に走るのだ。身代りの友を救う為に走るのだ。会長の奸佞邪智を打ち破る為に走るのだ。
走らなければならぬ。そうして、私は殺される。若い時から名誉を守れ。さらば、ふるさと。若いポメラニアンは、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。
わん、わんと大声挙げて自身を叱りながら走った。村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、雨も止み、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。
ポメラニアンは鼻の頭の汗を舌で払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。娘。たちは、きっと佳い夫婦になるだろう。
私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。まっすぐにアザブビルに行き着けば、それでよいのだ。そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気さを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。

90 :名無し募集中。。。:03/10/10 03:17
 
     ミ\__/ミ 
      (・ω・ヾ  〜♪
       uu_)@

91 :名無し募集中。。。:03/10/10 09:15
ポメラニアンはとりあえずポメってみた

92 :あぼん用:03/10/10 12:27
ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧いた災難、ポメラニアンの足は、はたと、とまった。
見よ、前方の川を。きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。
彼は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに吠えたててみたが、繋舟は残らず浪に浚われて影なく、渡守りの姿も見えない。
流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。ポメラニアンは川岸にうずくまり、男泣きに泣きながらゼウスに手を挙げて哀願した。
「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、アザブビルに行き着くことが出来なかったら、あの佳い友達が、私のために死ぬのです。」

93 :あぼん用:03/10/10 12:32
 濁流は、ポメラニアンの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。浪は浪を呑み、捲き、煽り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。
今はポメラニアンも覚悟した。泳ぎ切るより他に無い。ああ、神々も照覧あれ! 濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。
ポメラニアンは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。
満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻きわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅の犬の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐愍(れんびん)を垂れてくれた。
押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。ありがたい。ポメラニアンは大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。

94 :あぼん用:03/10/10 12:37
一刻といえども、むだには出来ない。陽は既に西に傾きかけている。ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に一隊の山賊が躍り出た。
「待て。」
「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちにアザブビルへ行かなければならぬ。放せ。」
「どっこい放さぬ。持ちもの全部を置いて行け。」
「私にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから会長にくれてやるのだ。」
「その、いのちが欲しいのだ。」
「さては、会長の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな。」
 山賊たちは、ものも言わず一斉に棍棒を振り挙げた。ポメラニアンはひょいと、からだを折り曲げ、飛鳥の如く身近かの一人に襲いかかり、その棍棒を奪い取って、
「気の毒だが正義のためだ!」と猛然一撃、たちまち、三人を殴り倒し、残る者のひるむ隙に、さっさと走って峠を下った。

95 :あぼん用:03/10/10 12:42
一気に峠を駆け降りたが、流石に疲労し、折から午後の灼熱の太陽がまともに、かっと照って来て、ポメラニアンは幾度となく眩暈を感じ、これではならぬ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。
立ち上る事が出来ぬのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。ああ、あ、濁流を泳ぎ切り、山賊を三人も撃ち倒し韋駄天、ここまで突破して来たポメラニアンよ。真の勇者、ポメラニアンよ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。
愛する友は、おまえを信じたばかりに、やがて殺されなければならぬ。おまえは、稀代の不信の人間、まさしく会長の思う壺だぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身萎えて、もはや芋虫ほどにも前進かなわぬ。路傍の草原にごろりと寝ころがった。

96 :あぼん用:03/10/10 12:52
身体疲労すれば、精神も共にやられる。もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな不貞腐(ふてくさ)れた根性が、心の隅に巣喰った。
私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、みじんも無かった。神も照覧、私は精一ぱいに努めて来たのだ。動けなくなるまで走って来たのだ。
私は不信の徒では無い。ああ、できる事なら私の胸を截ち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。愛と信実の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。
けれども私は、この大事な時に、精も根も尽きたのだ。私は、よくよく不幸な雄だ。私は、きっと笑われる。私の一家も笑われる。私は友を欺いた。中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。
ああ、もう、どうでもいい。これが、私の定った運命なのかも知れない。まきばおうよ、ゆるしてくれ。君は、いつでも私を信じた。私も君を、欺かなかった。私たちは、本当に佳い友と友であったのだ。いちどだって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。

97 :あぼん用:03/10/10 12:58
いまだって、君は私を無心に待っているだろう。ああ、待っているだろう。ありがとう、まきばおう。よくも私を信じてくれた。それを思えば、たまらない。
友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝なのだからな。まきばおう、私は走ったのだ。君を欺くつもりは、みじんも無かった。
信じてくれ! 私は急ぎに急いでここまで来たのだ。濁流を突破した。山賊の囲みからも、するりと抜けて一気に峠を駆け降りて来たのだ。
私だから、出来たのだよ。ああ、この上、私に望み給うな。放って置いてくれ。どうでも、いいのだ。私は負けたのだ。だらしが無い。笑ってくれ。
会長は私に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした。おくれたら、身代りを殺して、私を助けてくれると約束した。私は会長の卑劣を憎んだ。
けれども、今になってみると、私は会長の言うままになっている。私は、おくれて行くだろう。会長は、ひとり合点して私を笑い、そうして事も無く私を放免するだろう。
そうなったら、私は、死ぬよりつらい。私は、永遠に裏切者だ。地上で最も、不名誉の犬種だ。

98 :名無し募集中。。。:03/10/10 13:10
 それは或獣屋の二階だつた。二十歳の彼は檻にかけた西洋風の梯子(はしご)に登り、新らしい犬を探してゐた。
ボオダア・コリイ、ポメラニアン、セントバアナアド、土佐犬、柴、ボルゾイ、……
 そのうちに日の暮は迫り出した。しかし彼は熱心に犬の解説を読みつづけた。
そこに並んでゐるのは犬といふよりも寧(むし)ろ大自然それ自身だつた。
シイズウ、ヴルドッグ、ダルメシアン兄弟、ダックスフント、ドオベルマン、ラブラドオル、……
 彼は薄暗がりと戦ひながら、彼等の名前を数へて行つた。が、犬はおのづからもの憂い影の中に沈みはじめた。
彼はとうとう根気も尽き、西洋風の梯子を下りようとした。
すると傘のない電燈が一つ、丁度彼の頭の上に突然ぽかりと火をともした。
彼は梯子の上に佇(たたず)んだまま、犬の間に動いてゐる店員や客を見下(みおろ)した。
彼等は妙に小さかつた。のみならず如何にも見すぼらしかつた。
「人生は一匹(いつぴき)のポメラニアンにも若(し)かない。」
 彼は暫(しばら)く梯子の上からかう云ふ彼等を見渡してゐた。……

99 :名無し募集中。。。:03/10/10 13:22
 
     ミ\__/ミ 
      (-ω-ヾ  
       uu_)@

100 :あぼん用:03/10/10 13:32
まきばおうよ、私も死ぬぞ。君と一緒に死なせてくれ。君だけは私を信じてくれるにちがい無い。いや、それも私の、ひとりよがりか? 
ああ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。村には私の家が在る。羊も居る。娘。夫婦は、まさか私を村から追い出すような事はしないだろう。
正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。他を殺して自分が生きる。それがこの世界の定法ではなかったか。ああ、何もかも、ばかばかしい。私は、醜い裏切り者だ。どうとも、勝手にするがよい。
やんぬる哉。――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。

101 :あぼん用:03/10/10 13:43
 ふと耳に、潺々(せんせん)、水の流れる音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。すぐ足もとで、水が流れているらしい。
よろよろ起き上って、見ると、岩の裂目から滾々(こんこん)と、何か小さく囁きながら清水が湧き出ているのである。その泉に吸い込まれるようにポメラニアンは身をかがめた。
水を、一くち飲んだ。ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。歩ける。行こう。肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。義務遂行の希望である。わが身を殺して、名誉を守る希望である。
斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。日没までには、まだ間がある。私を、待っている馬があるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれている馬があるのだ。
私は、信じられている。私の命なぞは、問題ではない。死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。走れ! ポメラニアン。

102 :あぼん用:03/10/10 13:47
 私は信頼されている。私は信頼されている。先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものだ。
ポメラニアン、おまえの恥ではない。やはり、おまえは真の勇者だ。再び立って走れるようになったではないか。ありがたい! 私は、正義の士として死ぬ事が出来るぞ。
ああ、陽が沈む。ずんずん沈む。待ってくれ、ゼウスよ。私は生れた時から正直な雄であった。正直な雄のままにして死なせて下さい。

103 :あぼん用:03/10/10 13:53
 路行く人を押しのけ、跳ねとばし、ポメラニアンは黒い風のように走った。野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駆け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、猫を蹴とばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。
一団の旅人と颯っとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。「いまごろは、あの男も、磔にかかっているよ。」ああ、その男、その男のために私は、いまこんなに走っているのだ。その男を死なせてはならない。
急げ、ポメラニアン。おくれてはならぬ。愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。風態なんかは、どうでもいい。ポメラニアンは、いまは、泥まみれであった。呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。
見える。はるか向うに小さく、アザブの市の塔楼が見える。塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている。
「ああ、ポメラニアン様。」うめくような声が、風と共に聞えた。


104 :あぼん用:03/10/10 14:01
「誰だ。」ポメラニアンは走りながら尋ねた。
「さえぐさとものりでございます。貴方のお友達まきばおう様の厩務員でございます。」その若い厩務員も、ポメラニアンの後について走りながら叫んだ。
「もう、駄目でございます。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方をお助けになることは出来ません。」
「いや、まだ陽は沈まぬ。」
「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」
「いや、まだ陽は沈まぬ。」ポメラニアンは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。走るより他は無い。


105 :あぼん用:03/10/10 14:07
「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。
あの方は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。
会長が、さんざんあの方をからかっても、ポメラニアンは来ます、とだけ答え、強い信念をもちつづけている様子でございました。」
「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。命も問題でないのだ。
私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。ついて来い! さえぐさとものり。」
「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」
 言うにや及ぶ。まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、ポメラニアンは走った。ポメラニアンの頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。
ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、ポメラニアンは疾風の如く刑場に突入した。間に合った。


106 :あぼん用:03/10/10 14:11
「待て。その馬を殺してはならぬ。ポメラニアンが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」
と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれて嗄(しわが)れた声が幽かに出たばかり、群衆は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。
すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたまきばおうは、徐々に釣り上げられてゆく。ポメラニアンはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、
「私だ、刑吏! 殺されるのは、私だ。ポメラニアンだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、齧(かじ)りついた。
群衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。まきばおうの縄は、ほどかれたのである。


107 :あぼん用:03/10/10 14:21
「まきばおう。」ポメラニアンは眼に涙を浮べて言った。
「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」
 まきばおうは、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くポメラニアンの右頬を殴った。殴ってから優しく微笑み、
「ポメラニアン、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」

「前足でもいいですか?」

「いや、拳で頼むよポメラニアン」

「オレ、犬だし」

会長・群集「ズコーッ」

>>27より

108 :あぼん用:03/10/10 14:21
>>27より

109 :名無し募集中。。。:03/10/10 14:47
 
     ミ\__/ミ 
      (゚∀゚ ヾ  
       uu_)@


110 :あぼん用:03/10/10 14:50
「まきばおう。」ポメラニアンは眼に涙を浮べて言った。
「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」
 まきばおうは、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くポメラニアンの右頬を殴った。殴ってから優しく微笑み、
「ポメラニアン、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」
 ポメラニアンは前足に唸りをつけてまきばおうの頬を殴った。
「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。


111 :あぼん用:03/10/10 14:55
 群衆の中からも、歔欷(きょき)の声が聞えた。暴君キヤマザは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二匹に近づき、顔をあからめて、こう言った。
「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
 どっと群衆の間に、歓声が起った。
「万歳、会長万歳。」
 ひとりの少女が、緋のタオルをポメラニアンに捧げた。ポメラニアンは、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「ポメラニアン、君は、泥だらけじゃないか。早くそのタオルで拭うがいい。この可愛い娘さんは、ポメラニアンの泥だらけの体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
 勇者は、ひどく赤面した。

                      《(古伝説と、シルレルの詩から。)書かれた走れメロスから。》 


112 :あぼん用:03/10/10 15:14
スレタイ通りとはいえ、スレ汚しスマソ
後半はNGワード用にコテにしたんで目障りならあぼーんしてくれ
29で終わりにしようかと思ったが、気持ちが悪いので最後までやった
なんか中途半端で悪かった
メロス自体好きだから、あんまり変えたくなかった
メロス以外は書いてない

って、誰もいないか
あばよ

113 :名無し募集中。。。:03/10/10 17:08
 
     ミ\__/ミ 
      (´<_ `ヾ  
       uu_)@

114 :名無し募集中。。。 :03/10/10 17:13
いまはただその一事だ。走れ!メロス。

ここがいいね

115 :名無し募集中。。。:03/10/10 17:20
>>96-97,100の辺りに筆者の真意が隠れているように思う

116 :名無し募集中。。。:03/10/10 19:19
||ハ||
||-^||<・・・・
||⊂||
||uu||

117 :名無し募集中。。。:03/10/10 19:49
規制age

118 :名無し募集中。。。:03/10/10 20:41
分け入っても分け入ってもポメラニアン

119 :名無し募集中。。。:03/10/10 20:50
へうへうとしてポメラニアンを味ふ

120 :名無し募集中。。。:03/10/10 23:11
そこで怪しい気配に気付き、ポメラニアンは辺りを見回した

121 :名無し募集中。。。:03/10/10 23:57
するとどうだろう、にわかに空には暗雲垂れ込め、
行き交う人々の顔色が一瞬にしてこわばっているではないか

と、ポメラニアンは声に出して呟いてみた

122 :名無し募集中。。。:03/10/11 01:02
ポメラニアンとあっちむいてホイしてみた
何回やっても俺が勝ってしまう
そう、ポメラニアンは俺の意思を読み取ろうと
全霊をもって俺の指先に集中している
全能の神は彼に純粋な思慮だけを与え
その他雑多なものは俺の脳髄に流し込んだ
指先を見つめる彼の澄んだ瞳には
灰色の俺が小さく歪んでいる
今夜、君には鶏のササミ肉を与えよう
出涸らしのコーヒー豆の粉末とともに

123 :名無し募集中。。。:03/10/11 01:28
もう二度と、この衣装は着るまい・・・
そう思いながら、ポメラニアンはきぐるみを脱いだ

124 :名無し募集中。。。:03/10/11 09:09
ついにポメラニアンは自分の意志で動き始めた。

もう誰もヤツに首輪をつけることなどできはしないのだ。

125 :名無し募集中。。。:03/10/11 09:11
昭和ポメリズム宣言

126 :名無し募集中。。。:03/10/11 12:49
自我を持ち始めたポメラニアンは次々と娘達に襲いかかった。

127 :名無し募集中。。。:03/10/11 14:20
「二匹のポメラニアンが鉄格子の檻から外を眺めたとさ――。
   
       一匹は餌を見た。一匹は星を見た。」


128 :名無し募集中。。。:03/10/11 19:16
ホゼラニアン

129 :名無し募集中。。。:03/10/11 20:00
ノンシャランのポメラニアンがやってもーた

36KB
新着レスの表示

掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50
名前: E-mail(省略可)

0ch BBS 2005-12-31